在日朝鮮人の20世紀F
同胞経済――時代の波に乗る
民族経済発展へ活発な合弁・合作 在日同胞商工人は、祖国の経済建設に寄与する合弁・合作事業にも多く携わっている。 合弁・合作事業は、1984年9月に朝鮮で「合営法」が公布されたのを機に本格的に進められ、87年4月には、市場調査や資材供給などを担う専門機関、総聯合営事業推進委員会が設立された。89年4月には、朝鮮側窓口の朝鮮国際合営総会社とのタイアップで、朝鮮合営銀行が誕生。91年4月には平壌で合弁製品の展示会も開かれ、好評を博した。 合弁・合作のジャンルには、当初は食堂や喫茶店、商店などサービス業が多かった。現在、最も多いのは被服生産に代表される軽工業で、4割近くを占める。そのほか、電子部品生産、農水産物加工、ピアノ生産など多分野にわたり、合弁・合作企業の数は二百余社、投資総額は2億ドル以上に達する。中でも良質で安価な紳士服は日本でも評価が高い。 一方、朝・日間に国交がないなか、72年1月に設立された朝・日輸出入商社をはじめとする貿易商社が、日本企業に対する朝鮮の貿易窓口的な役割を担っている。 「北・南・在日ベンチャー」という試み 今年6月の北南首脳会談を機に、北南関係が急進展するなか、同胞商工人の間からも、北南双方とタイアップした「民族ベンチャー」を興す動きが目立ち始めた。 東京で今年7月に設立した「ユニコテック」は、北南双方が高い技術力を誇ることで知られる情報技術(IT)に目をつけた。プログラム作成などソフト開発水準の高さで注目を集める北と、ハードの製造や流通のノウハウに長けた南、有力市場の日本を結ぶことで「北・南・在日ベンチャー」という新しいスタイルを実現させた。 同胞ソフト開発企業と南のパソコンモニター製造企業が合弁、北の朝鮮コンピュータセンターの技術提携を受けるユニコテックは、パソコンなどを使った自動通訳技術を開発しており、朝鮮語ワープロソフトなどを発売。「民族経済活性化への起爆剤に」(梁泳富社長)と意気盛んだ。 同じく東京に本社を構える「トラスコ」が開発した、車のオイル交換を1度の装着で不要にしたオイル再生器「トラスコオイルフィルター」が、南の科学技術研究院主催の大会で優秀賞を受賞するなど、同胞企業の商品には南で高い評価を受けるものもある。 IT時代の同胞ニュービジネス 一般家庭でのパソコン購入から国単位のプロジェクトに至るまで、ITは世界の産業において欠かせない分野になった。日本でも、長引く不況下にあってもIT関連企業は着実な伸びを見せている。同胞商工人も「こうしたすう勢に無関心ではいられない」と、若手経営者を中心に、インターネットなどITを武器にした新しいビジネススタイルを模索している。 焼肉業界とITを融合させたのが、ネット上での同胞店舗宣伝というジャンルを築いたサイト「焼肉天国.com(ドットコム)」。主に首都圏の同胞焼肉店、数十店を地域・予算別に検索できる。「焼肉ブームの中でも、下地を築いた同胞店の良さはあまり知られていないと思い、そういうお店をPRしようと思った」(朴亨柱代表)とのことで、首都圏中心に百店舗登録を目指している。 ネットベンチャーといっても、扱うジャンルは多岐にわたる。神奈川の「テスプランニング」はホームページの企画・制作代行業、「千葉シティネット」はプロバイダー(ネット接続業者)業務、茨城「夢市場」はチマ・チョゴリなどのネット通信販売と、いずれもネットの急速な普及をバックに、ITをキーワードに結びついた、「同胞ニュービジネス」。次世紀の主流になり得るジャンルとして、商工人の注目を集めている。 ニーズに応え―増える介護業者 同胞社会も世代交代が進み、一世をはじめとする同胞高齢者の介護は切実な問題になっている。介護保険制度の導入から9ヵ月ほど経ったが、言葉の壁や習慣の違いによるコミュニケーションへの不安、無年金状態にある人たちの保険料負担など、課題は数多い。 こうしたニーズに応えようと、近年、介護ビジネスに進出する同胞商工人が増えている。やはり同胞が多く暮らす近畿地方に多い。大阪の「グローバル」や「ハートフル東大阪」、京都の「エルファ」では、要介護者の多くが地元同胞。「同胞のことは同胞が一番よく分かる」と、ケアプランの作成から同胞ヘルパー派遣まで携わる。今年10月には、大阪・平野区に、地域社会に根差したビジネスを掲げる「ケアステーション 介護の森」がオープンした。 介護ビジネスは、大手業者の撤退や中小業者の乱立で頭打ちの状態。同胞業者も「同胞の役に立ちたい」というボランティアの理念と、ビジネスとしての介護を両立させる難しさを実感しながらも、「同胞に心から信頼される場所」(「介護の森」経営者の崔善貴さん)を目指している。(柳成根記者) |