「あなたたちを愛していると告げにいこう」

五師のぶえ


 歓声もみだれとぶ七色の紙テープもない
 わたしたちの灰色の港から
 北朝鮮の万景峰92は発った

 あなたたちを愛している、と告げにいこう
 白くつめたい笑顔の下に あなたたちのときめく鼓動をききたい
 あなたたちのときめく胸の鼓動をききたい
 あなたたちの疼いている思いを知りたい

 わたしたちの日々は
 ぎしぎしと軋みあっていても
 あなたたちを愛している、と告げにいこう

 法隆寺、飛鳥寺、高松塚、古墳群に
 影を残した渡来人たち
 わたしたちの頭上に
 はるかな星のように燦(きら)めいている

 元山から平壌へ
 忘れ去られた真空と清冽な大気
 子猫のように背を丸めた岩肌の山を
 うす毛のようにひ弱なじゃがいも、とうもろこし
 大豆
 流される
 白雲が痛々しい

 青い屋根、板張りの物置小屋のような部屋
 机上に置かれた2つのマイク
 それが38度線であった
 1つの大地
 1つの血脈
 真っ赤なスイカを真っ二つに割るように
 世界を手玉に取った、というのに
 マイクは
 語るどころか呼びかけもしないし声もたてない…
 
 非戦闘区域で
 静かに自転している地球 広がる畑の上に
 半島を思うがままに吹き抜ける雨風

 この国は理想をもとめたがゆえに
 この国は生きてこられなかったがゆえに
 街の窓々に平等のおきてが敷かれた

 朝鮮戦争で
 平壌を20回爆撃したという
 元米軍パイロット、オーバービーさんは
 「彼らは僕を殺さなかった…。こんど平壌へ来る時は、苗を植えにー」

 2000年夏の終わり
 雨の元山港
 見送る北朝鮮のひとびと わたしたちの瞳に
 チマチョゴリの微笑が広がった
 
(筆者は今年8月23日から27日まで、「ピースボート」で訪朝、本紙に「ひとつの旅」と題する詩を寄せた。掲載に当たり一部省略した)

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