朝鮮料理に秘められた効用(4)/韓啓司・恵クリニック院長
五味五性−先祖から伝わる食文化
まさに薬膳料理の神髄
陰陽五行説
漢方医学は陰陽五行説によりあらゆるものを五行に分類し、それぞれのバランスが大切という考え方だ。万物は木、火、土、金、水の五つの物質からなり、内臓は肝、心臓、脾(胃腸)、肺、腎臓の五臓に分ける。食べ物の味と性質も5つに分ける。これを五味五性と言う。
五味とは酸、苦、甘、辛、鹹(かん)で、味が身体に薬効があり、どの味、どの食べ物がどの臓器に良いかという考え方だ。鹹とは塩味のことで、ニガリを含んだ天然塩の味である。
酸は肝臓に良く、食べ物としてはレモン、ゆず、梅、りんごなどだ。苦は心臓に良く、お茶、ごぼう、うど、ふきなど。甘は胃に良く、蜂蜜、梨、ごま、牛肉、人参など。辛は肺や大腸に良く、ねぎ、にら、わさび、大根など。鹹(かん)は腎臓、膀胱に良く、みそ、ひじき、食塩などだ。
女性が妊娠したら酸っぱいものを食べたくなるが、それは胎児の体毒のため肝臓が疲労するので酸っぱいものが必要になるからだ。
五性とは熱、温、平、涼、寒を意味し、体を温める食べ物と冷やす食べ物があるという考え方だ。
熱は体を温める作用で、食べ物としてはよもぎ、山芋、唐辛子などだ。温は体をやや温める。あんず、いわし、しそ、白菜など。平は寒熱の歪みがなく、日常食べると滋養強壮効果がある。米、卵、大豆、蜂蜜、里芋、とうもろこしなど。涼は清涼感があり消炎作用もある。豚肉、栗、小麦など。寒は体を冷やす作用で、ビール、ほうれん草、豆腐、きゅうりなどだ。
キムチチゲと豚肉
私の家では、夏でも子供たちに毎週1回はキムチチゲを食べさせている。これはアボジの代から続いている。夏に体が冷えるといけないので、暑気払いといって体をうんと温めてあげれば、冬になり寒くなっても風邪を引きにくくなるからだ。
アボジは大根を入れたカルビクッを作っていた。大根は体を温める食材である。アボジがそれを知っていたということは、アボジのオモニから教えられたからだ。
勉強したわけでもないのにハルモニたちはそれを知っていた。これこそまさに薬膳の神髄である。1世のアボジは食伝統として、われわれに伝えてくれた。
五性の真ん中の平になるよう、食べ物を組み合わせるのが良い食べ方だ。熱にもせず、寒にもせずに組み合わせるのが一番いい。
キムチチゲを作る時、朝鮮人は必ず豚肉を入れる。なぜ牛肉を入れないのか。キムチは温で、豚肉は体を冷やす涼だからだ。牛肉は温なので、温のキムチに温の牛肉を入れると温と温が重なって体に良くない。
実際に食べて見れば分かるが、キムチチゲの中に豚肉を入れるのと、牛肉を入れて食べるのでは、豚肉を入れて食べる方が絶対に美味しい。
また蒸し豚を食べる時に温のチョジャンをつけて食べるが、温の牛肉を温のチョジャンでは食べない。
中国の理論を、朝鮮ではちゃんと行っていた。これは中国の文化を真似したのではなく、すでに科学的な考え方をもっていたからといえる。まさに朝鮮民族が誇るべき知恵である。(次回は最終回、ダイエット)