リスクに向かう個人マネー
背景に政策と老後不安
株市場回復、投信も拡大期待先行? リターン注視
日本の個人金融資産(個人マネー)が株式や社債、投資信託など、相対的にリスクの高い金融商品に流入している。「自己責任による投資時代の幕開け」との声もあり、有望企業への資金供給増加による経済活性化が期待されている。実態と背景、今後の展望を探った。(金賢記者)
1300億円
日本の個人金融資産の残高は、1992年末に1000兆円の大台に届いた。その後、94年末に1100兆円、96年末に1200兆円と増え続け、昨年末には1300兆円台に乗った。
内訳は、現金と預貯金が727兆円で、全体の過半を占める。これに対し、有価証券類は約179兆円にとどまっている。
現金・預貯金と有価証券の割合の差はバブル崩壊後、ほぼ一貫して拡大して来た。株価低迷のうえに、たび重なる金融不祥事が投資意欲をそいだことなどが要因と言える。
それが昨年になり、個人マネーの動きがにわかに活気を帯びて来た。
99年末の投資信託の純資産残高は、98年末より8兆6000億円増え、バブル後最大の伸びとなった。個人の株式購入金額は37兆4610億円で、98年の実に4倍、90年の約417兆2000億円以来の高水準に到達した。個人による普通社債の消化も急増している。
相乗効果
こうした動きの背景に、株式相場の上昇があるのは言うまでもない。高金利や円高差益を見込んだ外貨預金が同じく増加しているのを見ると、株高と長引く低金利との相乗効果が生まれていることも明らかだ。
日本政府の政策も、資金を投資に誘導している。金融ビッグバンでは外為法改正、株式売買委託手数料の自由化、業際規制の撤廃などによって、個人マネーの流動化をねらっている。そこで生まれたリスクマネーを、成長力のある企業に供給することが経済構造改革の主眼だ。
模範になっているのが、証券市場が発達した米国の例だ。個人金融資産の構成は証券類が過半を占め、日本とはまったく対照的な形になっている。旺盛な投資意欲が高収益企業への資金供給を支え、それが好況を持続させるというサイクルを形成しているのだ。
日本の企業や金融機関もビッグバンの流れに従って、個人向けの金融商品を競って開発している。
さらに言うならば、人々が感じている「将来への不安」も、投資が活発になった要因の1つに数えられるかも知れない。
年金制度の空洞化が心配されるなかで、自己責任の資産運用で老後に備えようという人も、少なくないだろう。確定拠出型年金「日本版401k」導入への関心の高さも、そうした世相を反映していると言える。
「バブル」の声
個人マネーの証券市場への流入は、今年も増えそうだ。
4月からは、10年前に年6%前後という高金利で設定された郵貯定額貯金の大量償還が始まり、その額は2年間で106兆円に達する。現在の利率は0.2%に過ぎず、償還された資金の相当部分が、株式や投信の購入に当てられるのは確実と見られている。
ベンチャー企業向けの株式市場も、投資家の関心を集めるだろう。昨年末に創設された東証マザーズに続いて、6月にはナスダック・ジャパンが始動する。
昨年12月にマザーズに上場した2銘柄に対しては、買い注文が殺到し、現在も株価は高水準にある。今年も同じような光景が繰り広げられることが予想され、人々の投資意欲もいっそう熱を帯びて来そうだ。
ただ、こうした投資熱が経済を成長路線に乗せるかどうかは、なお注視する必要がある。
米国の景気拡大は、今月で史上最長の107ヵ月目に入ったが、情報技術革命による生産性の向上、好況の力強いサイクルに引かれた巨大な国際マネーの流入も大きな要因になっている。
情報通信株を中心とする過熱気味の投資には、日米ともに「バブル」と指摘する識者が少なくない。とくに日本は、ビッグバンや情報技術革命でも、米国に比して爆発力に欠ける。
先行する期待に、実態経済がどの程度のリターンで応えるのか――当分は目が離せないところだ。