商工ローンどう対応/保証人がターゲット
債務者−内容整理し訴訟に出る
保証人−経過を錠音し弁護士に相談
中小企業を対象にした商工ローンの厳しい取り立てが大きな社会問題になっている。東京・上野の同胞法律・生活センターにもこの2年間に金銭貸借に関する相談が、197件も寄せられている。その場に直面した時、どう対応すればよいのか。
オーナーから一転
東京・台東区の某パチンコ店で働く在日同胞Aさん、今年49歳になる。若手従業員が多いなかで、年配のAさんの存在は目につく。Aさんは以前、焼肉屋1軒、喫茶店3軒を経営するオーナーだった。
10年ほど前、駅前の喫茶店を担保に、以前から付き合いのある都市銀行から融資を受け焼肉店を始めた。その後、店が軌道に乗るまでの運営資金として、同じ銀行から200万円の追加融資を申し込んだところ突然断られた。
困ったAさんは、現在の借入先への返済だけでも滞らせないために、ほかの喫茶店を担保にほかの銀行に走った。その時はすぐに返せるとたかをくくっていたが、喫茶店はもともとバブル経済で勢いついて始めたもの。その後、焼肉店は軌道に乗ることはなく、借金を返済するために、店を1軒整理することになった。
弟を保証人に商工ローンに手を出したのがこの頃。返済に追われながら1軒でも店を残そうとしたが、借りたお金は一向に減らず、利子の返済に明け暮れた。結局一番流行っていた駅前の喫茶店もたたみ、借金返済にあて、すべてを手放す羽目になった。
ローン会社の人に1000万円までは借りれるという甘い言葉を言われながら、Aさんはその申し入れを断ち切った。
Aさんが、店を残そうと多重借入れを繰り返していたら、今頃商工ローンの取り立てにあっていたはずだ。それをしなかったのは保証人である弟を守ろうとしたためだった。
「地獄に仏」
商工ローンの特徴は、「根保証」という特異な融資限度額を設け、過剰融資を繰り返し、債務者本人の返済能力を越える貸出をして、保証人を追い詰めていく方法だ。もともと本人が返済できなくなっていくことなど構わず、保証人をターゲットにしていくのだ。
商工ローンは、貸渋りの銀行に比べ、保証人さえたてれば簡単に借り入れができるため、どうしてもお金がいる時は、まさに「地獄に仏」に思えてしまう。
Aさんの弟は、大手企業のサラリーマン。弟には迷惑をかけたくないというのが、Aさんの心情だった。だが、さらに追加融資を受ければ、確実にやりくりができなくなって、保証人の弟のところに厳しい取り立てが行くことになる。Aさんは、専門家の助言を受け、店を全部あきらめることにしたのだ。
被害者60万人
商工ローンの厳しい取り立ては昨年、有名になったが、被害者は全国で60万人を越えている。そのほとんどが保証人になった人たちだ。
保証人とは、もし借りた人(債務者)が約定どおり返済できない時は、変わって返済することを引き受けた人を言う。手続きは簡単だ。保証の内容が書いてある(または印刷してある)書面に住所、氏名を署名し捺印するだけだ。保証の内容は、例として、(1)期間と金額を際限なく保証する包括根保証 (2)期間と上限金額を定め保証する限定根保証 (3)その借入だけを保証する特定債務保証、などだ。
ここで注意しなければならないのは、保証の形に関係なく、「……負担する債務ならびにこれに付帯する一切の債務」という文言だ。商工ローンの取り立てで問題になった文言である。
では現在、商工ローンの債務者、保証人になっている人々は、今後どのように対処すればいいのか。
同胞法律・生活センターに所属する弁護士、専門家によるとまず、(1)追加融資に絶対応じない (2)債務の全般整理をする (3)現状を債務者は速やかに保証人に報告する (4)領収書は必ず正規のものを取る (5)保証人は、債務者がここまで至った経過を取り立て人に説明させ、それを録音した会話テープを持って弁護士に相談する。さらに訴訟になった場合(商工ローンの取り立ての特徴は裁判に訴えて、その判決をたてに債務者に迫る手口)は、必ず出席する、などだ。
商工ローンは、都市銀行の貸渋りで資金繰りの厳しくなった中小・零細企業経営者が頼ることになり、この10年間で驚異的な躍進を遂げた。商工ローンで助かった中小企業経営者もいるだろうが、安易な借り入れはリスクも大きいことを認識する必要があろう。
(金美嶺記者)