女のCINEMA/「季節の中で」


ベトナムの柔らかな心

 ベトナム戦争後初のオールベトナムロケ、ベトナム人俳優によってベトナム語で演じられた米国映画。

 統一後、様々な紆余曲折を経て、成長と変化の真っ直中にあるホーチミン市(旧サイゴン)に生きる市井の人々の綾なす人生模様を描いている。

 郊外の広大な蓮沼の所有者でハンセン病の詩人と蓮摘みの若い女性との関わり、シクロ(ベトナムの人力車)の運転手と上昇志向の強い娼婦の出会い、雑貨売りのストリート・キッズとベトナム人女性との間にもうけた娘を探しに来た元米兵との関わりなど、傷ついた人びととの出会いと、癒され立ち直ってゆく人びとの生活が映し出される。

 10有余年に及ぶ反米救国戦争(ベトナム戦争)を前後した、執ような外勢の侵略・干渉をはねのけ、南北に分断された国土を統一、度重なる戦火をくぐり抜けてきたベトナムに、平和が訪れてまだ10年に満たない。

 未だ国土の荒廃、貧困の様相が目立つ厳しい状況にあるが、民族独立を勝ち取った自信が、ベトナムの柔らかな心、ゆったりとした情緒となって表れている。

 一面に広がる蓮沼の緑、水郷にたゆたう蓮花の白、純白のアオザイに降り注ぐ火炎樹の花びらの赤が目にも鮮やかで鈍色の古都のたたずまいを詩情豊かな映像美に仕立て上げている。ベトナム語の歌の唱和もこれを盛り上げている。

 これまでの米国のベトナム戦争映画によって、ベトナム人は顔のないエイリアンのように描かれてきた。その人種的偏見がベトナム戦争の歴史的メッセージを歪めたとも指摘されてきた。この映画によって少しでも「悪しきベトナム人」のイメージを払拭できたのではないか、と思う。

 終幕時の「飾らずに自分らしく生きればいい」と語るシクロの運転手の言葉は、そのまま「ベトナムらしく生きる」という姿勢だろう。分断された国が、1つになって成長する姿は、朝鮮半島の明日をも示唆してくれるようだ。

 ベトナムに生まれ、2歳の時に米国に移住したトニー・ブイ監督作品。1時間48分。(鈴)