米国で顕著/拡大するデジタル格差
所得に影響=A政府警鐘


ネット利用20倍の開き

 気になる言葉がささやかれている。デジタル・デバイド――パソコンやインターネットの使用頻度、習熟度の違いが、情報収集力やひいては所得の格差にまでつながるというものだ。デジタル・エコノミ−への道をばく進する米国では早くから問題視されているが、このところ日本でも心配する声が出始めた。日米の現状などを見る。

「人種」「教育」など複合作用、日本でも進行のきざし

アジア系先行

 「子供たちは自分で作った映像作品を配信し、他人とともに楽しむようになる」「病院、大学などをネットでつなげば、医療の進歩をより早くできる」

 1月末〜2月1日にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムで、米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長やAOLのスティーブ・ケース会長らは、ネットの希望に満ちた将来像についてこう語った。だが同時に、「誰も取り残されないようにするのが大切」(ケース会長)と付け加えるのも忘れなかった。

 米国が標榜(ひょうぼう)するデジタル経済社会では、文字の読み書きと同じくらいパソコンやネットの習熟が大切になる。

 米国では現時点で、ネットの普及率が3割を超えているが、その内訳をのぞくと、深刻な格差の存在が浮き彫りになる。

 米商務省は数次にわたり、デジタル・デバイドに関する報告書を発表。それによると、パソコンの所有やネット利用における格差は、収入や人種、教育などに由来する階層間で年々拡大している。

 昨年発表された、98年時点に関する報告書の一部を要約抜粋する。

――【収入】  

 年収7万5000ドル以上の世帯は、年収5000ドル以下の世帯に対し、パソコンの保有率が5倍、ネット利用率が7倍に達する。

――【人種 】 

 アジア太平洋系の世帯はパソコンの普及(55%)とネット利用(36%)で最も進んでおり、それに白人世帯が続く。黒人・ヒスパニック世帯はアジア系の半分に及ばない。

――【教育程度】  

 大卒以上は小学校卒に比べ、パソコン所有で8倍、ネット利用で16倍に達している。

差別も要因

 この他にも、家庭状況、居住地域、世代などで格差が存在し、それらは複合的に作用している。例えば、ネット利用度が最も高いのは都市郊外の富裕層(年収7万5000ドル以上)で、最も低い田舎の低所得層(同5000〜一1万ドル)と20倍の開きがある。

 以上のように格差の存在は明らかだが、こうした現象は、貧富の格差や人種差別など、米国に以前からある社会構造に起因していると考えるのが自然だ。

 黒人やヒスパニックは富裕層でもパソコンの保有率が少ないが、「できるだけ差別の影響を受けない分野で成功を求めた結果、それがたまたまパソコンのない場だった」からだと指摘する識者もいる。

 実は、肝心のネット利用度の差による所得への影響という点については、米商務省の報告書でも分析はなされていない。

 ただ、米国における情報化の進行の速さを見れば、デジタル・デバイドが階層間格差の新しく大きな要素になる可能性は、想像に難くない。

 報告書でも将来に対する懸念を表しながら、予防策として公共施設の端末増設や学校教育の強化などを訴えている。

勝敗分かれ目

 日本ではどうだろうか。

 日本経済新聞は2月6日付で「パソコン、収入格差を助長」と報じた。

 経済企画庁と労働省の統計に基づいたもので、高所得者ほどパソコン購入比率が高く、情報通信産業の中途採用賃金が全産業平均より多いとする内容だ。年収1200万円以上の世帯ではパソコンの普及率が55.4%なのに対し、300万円未満では8.7%にとどまっており、その差は広がっているとしている。

 だが、好況下の米国と不況下の日本とでは、消費動向に差が出るのは当然だ。ネット普及率もまだ全体的に低い水準にあり、すぐに米国と同じ状況になるかは分からない。

 ただし言うまでもなく、人に先んじて情報化の波に乗れば、成功のチャンスは近付く。

 示唆的なのは、世帯における情報化で先行するアジア系米国人の例だ。電話の普及では他に遅れを取った彼らだが、コンピュータには白人より積極的に取り組み、成功を目指しているようだ。                                                      (金賢記者)