春夏秋冬


 1984年3月、江崎グリコの社長誘拐を端に発したグリコ・森永事件。13日の時効を前に新聞、テレビが改めて非公開だった捜査当局の資料などをもとに事件の経緯、犯人グループ像などに迫っていた

▼次々と脅迫状を食品会社、捜査当局に送り付け、たび重なる厳重な捜査網もくぐり抜けてしまった。とくに似顔絵が大量に配布された、一重まぶたの切れ上がった「きつね目の男」は、社会的にもっとも記憶に残る人物の1人となった

▼この男に似ていると、執ように捜査当局の取り調べを受けた人たちもいる。ある日突然、捜査員が尋ねてきて事件の節目と目される日時のアリバイを聞かれ、後で、似顔絵のせいかとその理由に気づいたと語る人もいる。犯人グループの中に、在日関係者も含まれていたという話もあった

▼容疑者とされた人の中には、別件で逮捕されたり、たびたび捜査当局に出頭を命じられた人もいる。そのことによって信用に傷がつき、事業がうまくいかなくなったり、転職をせざるを得なかった例もある

▼事件発生の背景には、バブルに浮足立ち始めた社会状況がある、と説明する識者もいたが、そのことが具体的にどのように作用したのかといえば、意味は不明で説得力はまったくない

▼ただ、容疑者として取り調べを受けた人たち、とくに別件で捜査を受けた人たちにとっては一生、忘れられない事件だろう。とくに人権とは、と問い掛けてみた場合、過去も現在もし意的に取り扱われてきたわれわれ在日同胞にとって、その状況に変化がないことを改めて思い知らされてしまう。(彦)