取材ノート/教えられる記者としての心構え


 私がひそかに楽しみにしているのが、「同胞の店」の取材である。

 その店自慢の料理、同胞たちの商売にかける情熱、長年の経験から培われた哲学、成功の秘訣などを直接知ることができるからだ。

 東京・銀座にとんかつ屋を構えて27年になる「とん銀」。開店当初、味を知ってもらうために、採算を度外視して、値段をうんと下げた。以来、客がつき、今でも店は繁盛している。「安くておいしい」という当たり前のことを追求してきた結果だ。

 しかし、この不況下、銀座で店を維持していくのは並大抵のことではない、とマスターの夏健守さんは言う。「不景気で手の打ちようがない」のが偽らざる心境だが、「がんばって乗り切るしかない」と話していたのが印象的だった。

 埼玉・蕨にあるホルモン居酒屋「長さん」では、ホルモン焼き、キムチなど食べ切れないほどの料理をご馳走になったが、中でも目の前でグツグツ煮えるテチャン鍋は最高だった。本場の味を出そうと、わざわざ大阪・鶴橋の達人に教えを請いに行ったという。店長金長漢さんのこだわりが感じられた。横浜のブライダルショップ「ポンナル」の代表、張裕幸さんのモットーは「お客様の要望に誠心誠意応える」ことだ。

 私はこの取材の過程で、店の主人たちから記者としての心構えを教わっているのではないか、と感じることがある。つまり、読者という「客」が必要とする記事を提供していくところに、読者が増える秘訣があるということだ。

 そのための王道はない。日々、同胞に会って彼らのニーズを知ることこそが大切なのだ、と改めて思う。(文聖姫記者)