金剛山歌劇団の若手演奏家
「響」、「郷」、「香」、「向」――「ヒャン」ライブ
アリラン、ジャズ、カヤグムとピアノのセッション…
自分なりの表現を
金剛山歌劇団(東京・小平市)の若手演奏家による民族音楽ライブ「ヒャン2」が3日、東京・国立のライブハウス「リバプール」で開かれた(1日は阿佐ヶ谷)。カヤグムとジャズのアレンジ、バンドと民族楽器の融合など、若手による新しい試みが観客を引きつけていた。
演奏された曲のアレンジや演出は、すべてメンバーのオリジナル。
カヤグム独奏「アリラン―ヒャンバージョン―」は、慶尚道の尚州アリランと江原道アリランをベースにした民謡にピアノ、ベース、ドラムなどの洋楽器とジャズを調和させた。途中、ジャズ曲「テイクファイブ」(ピアノ)と江原道アリラン(カヤグム)が同時に演奏される場面があったが、同じ5拍子の曲が同時に流れながらも、どちらも突き出した感がなく、民謡とジャズの両方が生かされていた。伝統的な民謡「アリラン」も軽く、聞き心地のいい作品に仕上がっていた。
ジャズは、黒人の民俗音楽とヨーロッパ音楽が融合されたものだが、カヤグムとジャズの「出会い」で、民族音楽の新しい可能性を探っていた。
チョッテの独奏「ハン」や、ソヘグムの独奏「リバー」(中国の胡弓曲)は、民族楽器の独特な音色が生かされたものだった。バッハの「G線上のアリア」はチャンセナプで聴かせた。
2部はロックバンドで始まり、ゲスト出演した北関東朝鮮歌舞団の尹漢信副団長が「彼が開いた未来へ」など自作曲のポップスを披露。幼稚園の頃に聴いた朝鮮の歌が音楽に慣れ親しむベースになったことや、影響を受けたミュージシャンの話を織り混ぜ、観客との距離を縮めていた。
クライマックスは「リョンガンキナリ」に続くバンドの演奏とサンモ回し。2時間に及ぶ公演の終了が告げられるや、観客は「チェチョン」(アンコール)を連呼。ラップ調に仕上げた歌や、迫力あふれるサムルノリに声援は鳴り止まらなかった。
3年前、「ヒャン」は民族楽器だけで演奏会を行ったことがある。それに比べると今回の公演は、すみずみに新しい試みが見受けられた。
幅と殻をやぶりたい
金剛山歌劇団は、年間200回以上の公演をこなす。しかし、メンバーの中には、多様化する同胞の音楽的し好に「応え切れているだろうか」というくすぶった思いがあった。1000人規模のアンサンブル公演では伝えきれないものもあった。
「自分なりのものを表現してみよう」という思いが、企画の出発だった。「響」、「郷」、「香」、「向」…。「ヒャン」というバンド名にはメンバーそれぞれの思いが込められている。
カヤグム奏者の朱宝覧さん(29)は、「楽器を始めたそもそものきっかけは、そばにあったから。民族楽器というと、観客も演奏者も構えてしまう傾向があるが、色んな人に聴いてもらうためにも、耳にスッと入ってくるような音楽を作りたかった」と話す。
観客の反応がストレートに返ってくるのがライブの魅力だ。反応を探ることで今までの演奏の幅や殻をやぶりたかったとメンバーらは話す。新しいもの、古いもの…。「こだわり」は様々だが「反応をつかみたい」意欲は共通していた。
最前列にいた黄英鎬さん(28)は、「チャンダン(朝鮮のリズム)と洋楽(バンド)のリズムを合わせることは難しい。違和感なく仕上げるには、どうすればいいんだろう」と頭をひねっていた。自分自身もバンドをしている黄さんは、「プロだから技術はぴかいち。素人にはできない何かを作り上げてほしいなー」と辛口の批評。期待の裏返しでもある。
「民族楽器にジャズやロックを織り混ぜたが、色んなジャンルを融合させるのは簡単だし、すでに色んな人が試みている。大事なのは、それが新しいものになるかどうか、広がりを持てるかだ」(河栄守さん、30)。
「同胞の心を開く、心に溶け込む音楽作り」(河さん)を目指す「ヒャン」は、今後様々な同胞に演奏の場を提供することも視野に入れている。 (張慧純記者)