女のCINEMA
「理想の結婚」
諧謔・風刺で彩る人間模様
自分の夫ほど清廉潔癖な政治家はいないと信じこみ、ひたすら崇拝し、愛しきってきた。その夫が出世のために犯した過去のスキャンダルを知り、幻滅する妻。しかし、夫の理想像は妻が勝手に抱いた偶像に過ぎない。――この映画のテーマはずばり、理想の結婚とは何か、男女間の真実とは何か、という問いかけ。
舞台は1895年、ロンドン社交界。夫は将来を嘱望された政治家。妻は貞淑な社交界の花―。
誰もが羨む理想の夫婦と、きままに独身生活を楽しむ社交界きっての伊達男と彼に首ったけの才気煥発の伯爵令嬢の2組のカップルが主軸。ここに個性的で多彩な登場人物を配して、複雑な男女の人間模様をユーモアと風刺たっぷりに展開する。
原作は、19世紀末の芸術至上主義作家。オスカー・ワイルドの風刺喜劇「理想の夫」。世間がまじめに扱うもの一切をふまじめに扱うことによって、途方もないおかしさを作り出すワイルド特有の逆説の手法を駆使した会話は、軽妙洒脱、ウィットに富む。世間体や常識に縛られる英国上流社会。その陰で偽善と誘惑、騙し合いと脅迫、政治の暗部までが見え隠れする。
幾重にも語りめぐらされた嘘、ドタバタ一歩手前のスレ違い、諧謔(かいぎゃく)と逆説に満ちたセリフの妙味に唸らされながら、映画は大団円へと進む。
「私たちは誰一人として完璧な人間はいない」「不完全な中にこそ、優雅さや美しい愛が存在する」――愛の本質が寛容さにあると説く。妻の夫に対する愛情は変わっていない。妻もまた未熟で、その罪も弱さも背負ったありのままの夫に、より新たな愛情を抱く。
1世紀を超えて親しまれる作品は、まるで現代に書かれたもののように新鮮味あふれる。結婚に求める理想や人間社会のあり様がいささかも変わらないからだろう。オリヴァー・パーカー監督。百分。英国映画。(鈴)