情報ビジネス変えるASP、販売からサービスへ
ネットでソフト借す新事業
大手、シェア確保にしのぎ/同胞ベンチャーも参入
2003年には68兆円規模に拡大するとされる企業間電子商取引(BtoB)。4兆8000億円とされる企業―消費者間の電子商取引に比べ、そのインパクトは圧倒的だ。そして、企業の情報化を促進し、BtoBの爆発的な伸びを加速するものとして注目されているのが、「ASP」と呼ばれる事業だ。情報サービス産業のあり方にも影響を与えそうなこの新事業の動向と、ここに挑戦する同胞企業の動きを見る。
来年3000億円
ASPとは、アプリケーション・サービス・プロバイダーの略で、コンピューターソフトをインターネット経由でレンタルする事業者のことだ。
顧客は、パソコンなどの端末で事業者のサーバーにアクセスすることで、様々なソフトを利用できる。自前で多数のソフトや機器類を買い揃える必要がないのだ。
情報システムの新規構築・更新にかかる初期費用が少なくて済むことから、とくに中小企業にメリットが大きい。米国でもこの点が受けて、昨年までに30億ドル規模の市場が出現した。
米国のASP推進団体、ASPICのトレイバー・グルーエン・ケネディ会長は、1月に訪日した際、「ASPでシステム運用コストは35%から65%削減できると見込まれる。日本での普及も間違いない」と強調。2001年には早くも3000億円規模になるとされる日本市場で、NTTデータ、富士通、NECなどが、米国勢も交えてシェア獲得にしのぎを削っている。
思惑が一致
ここに参戦しようという同胞ベンチャー企業がある。32歳の辛根成社長率いるシーズコーポレーション(シ社)だ。シ社については以前にも紹介したが、設立から3年、スタッフ4人という若い企業だ。近鉄四日市駅から車で5分ほどの本社はいたって地味な平屋建てで、町の零細企業といった風情だ。
しかしあなどることなかれ、シ社がASP事業で提携する企業群の顔ぶれがハンパではないのだ。リコー、コンパック、日本マイクロソフト、オービックなどの有名企業がずらりと並ぶ。
シ社が握るASPシステム構築・運営技術の完成度の高さによるものであることは間違いないが、同時にもう1つ言えるのは、情報産業に変化の兆しが生まれているということだ。
ASPの、ユーザーにとっての利点はすでに述べたが、実は提供する側にもメリットはある。し烈な値下げ競争に手こずる機器メーカーや、巨額化する開発費を1日も早く回収したいソフト会社の思惑が、ユーザーニーズと一致したのだ。そして、ASPの加速に伴い、ソフトをユーザーごとに買って利用するという従来のビジネスモデルは、さらに崩れることになる。
辛社長は、「ASPは、情報産業のビジネスを製品の販売からサービスの提供へ転換させる推進力になる」と力説する。
共同利用
今月10日、東北地方から2人連れの同胞男性がシ社を訪れた。1人は会社経営者、1人は専従活動家だ。
2人の用件は、「ゆくゆくは地元の同胞社会をネットでつなぎたい。ASPを活用できないか」というものだった。
たしかに、1つのサーバーに多数のユーザーがアクセスし、コストを分け合うASPは、同胞社会での共同利用に向いている。ちなみに、シ社のASPは普通のパソコン操作と変わるところがなく、企業以外の一般ユーザーにも魅力がある。
ほかに先駆けてシ社のシステムを導入した兵庫県の同胞企業関係者も、「同胞企業同士でのASPの共同利用に期待している。希望があれば、わが社のシステムを見学してもらってもよい」と話す。
現状では、ネット経由でサーバーに接続する場合の通信費など、コスト面の課題もなくはない。だが、「市場の様相が変わるなか、企業はシェアの確保に躍起だ。同胞社会が結束してスケールを示せれば、有利な条件も生まれる」(辛社長)のも事実だ。
いずれにせよ、今の経済では情報化が勝負を分けると言われる。同胞中小企業にとって、ASPが要注目であるのは確かだ。(金賢記者)