現場からの意見(下)
崔雅絹  ハーモニー共和相談指導員

介護保険−今後の対策
風習、嗜好、言葉の違い/様々な弊害と問題点


言葉通じず対応困難と判断されたBさん
同胞サポートする体制作りを

本名を名乗れない場合も

 2回にわたって、介護保険制度そのものの持つ問題点を取り上げてきたが、それとは別に実際、在日朝鮮人1世が介護保険制度のもとで社会福祉サービスを受けた場合でも、様々な問題が生じる。

 まずケアプランのもとでヘルパーのサービスを受けた場合、風習や環境の違いがあるため、よほどその歴史的背景やその人自身の置かれた状況を知ろうとする気持ちがヘルパーにないと、コミュニケーションがうまく取れず利用の継続が難しくなる。

 嗜好にあった食事の提供を受けられないという問題も起こり得る。言葉によって必要としている援助を受けられないことも生じる。

 デイケア(通所サービス)を利用しても、これまで趣味や余暇を楽しむ余裕のなかった1世にとって、その雰囲気になじめず、だんだんと足が遠のく可能性もある。

 また、施設などの入所サービスの際、在日朝鮮人高齢者は少数者となり、本名を名乗れなかったり、民族民謡や音楽が聴きたくても声を大にして要求できないなどの状況も考えられる。実際に特別養護老人ホームで本名を名乗れず、通名で生活しているケースを耳にしたことがある。

 痴呆症状によって日本語を忘れ、母国語しか話せない人が、意思疎通が出来なくて、言いたいことが伝わらず苛立ち、一方、スタッフもそれが理解出来ず結局、問題行動のある対応困難な人として施設で生活を継続することが出来なくなったケースもあった。

 他施設からそのような人を紹介されたことがあったが、当施設では母国語に対応出来るからか、興奮は収まり今は落ち着いた生活を送っている。

 このように在日朝鮮人高齢者にとって、様々な弊害が起きることが考えられるが、何らの対応策もなく配慮もされていない。

アンテナを広げる必要性

 私たちは、このような状況をふまえ、自分たちに何が出来るのかを考えなければならないと思う。

 4月に開始される介護保険は、申請のもとで行われる。申請をしなければもちろん、そのサービスを利用することは出来ない。

 要介護度の認定がおりてから、ケアプランを立てた上でサービスを利用することになる。各施設や病院ではケアプランセンターを構えている所が多くあり代行で申請したり、プランをたててもらったり、相談にものってもらえる。また認定に不服があれば不服申立制度がある。

 このようなことを知らない独居の1世や高齢者だけの世帯、家族も存在すると思う。そのため私たちがアンテナをもっと広げ、在日朝鮮人高齢者をサポートしていかねばならない。またそのような体制づくりも重要といえよう。

 日本では民生委員制度があり、路地単位で民生委員が地域のお年寄りの様々な問題を拾い上げ、サポートしている。在日朝鮮人高齢者も地域で生活する一員だが、なかなか積極的な援助につながらないケースが多いようだ。

 介護保険導入を機に、その問題点を見極めるとともに、在日朝鮮人高齢者の抱えている問題を正確に把握し、サポートしていくことがいっそう求められている。

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