日朝交渉テーマに講演

中江要介・元駐中国日本大使


謝罪・補償は当たり前、無条件で正常化を

 13日、東京の明治大学リバティータワーで行われた「朝鮮問題」公開講座(主催=「朝鮮問題」懇話会)で中江要介・元駐中国日本大使が行った講演「日朝交渉と日本外交―東アジアの21世紀に向けて」の内容は次のとおり。


日本に残された義務

 日朝国交正常化交渉は、白紙のまま放置しておいた問題を処理するものだ。そもそも手付かずで白紙なのだから、ただそこに墨で黒々と「正常化」と書けばいい。無条件、つまり何の前提条件もなしに、まずは正常化することから始めなくてはならない。

 それはこれが、日本が1945年の敗戦後に行うべき義務であった、朝鮮の独立を承認する問題だからだ。敗戦国日本はカイロ宣言の履行を約束したポツダム宣言を受諾し、サンフランシスコ平和条約のなかで朝鮮の独立を承認することを約束した。これが日朝関係の原点だ。

 しかし東西冷戦の状況下で西側に身を置いた日本は、朝鮮半島の南半分だけしか承認しなかった(65年の日韓条約)。北半分は手つかずのまま残された。このように戦後処理をまったく行っていないのは、朝鮮に対してだけである。

 遅ればせながら、これを半世紀遅れで実現させることが日朝国交正常化である。米「韓」の顔色を見る以前の話だ。本当は89年の冷戦崩壊後、さっさと朝鮮半島の北半分とも国交正常化すべきだったのだ。

 20世紀のことは20世紀中にと政治家たちは言っている。それはそうかもしれないが、たまたま世紀の節目なだけであって、例え節目でなくても、やるべきことはやらなくてはならないのだ。戦後補償について言えば、日本による36年間の植民地支配について謝罪し、補償するのは当たり前のことだ。

「脅威」は被害妄想

 もう冷戦は終わったのだから、冷戦思考にとらわれる必要はない。日本もあらゆる国との関係を自由に広げて行くべきだ。日本外交も本当の意味でのリストラ(リストラクチャリング=再構築)が必要だ。

 例えば日米安保体制にしても、冷戦が終わったにもかかわらず米国があおる「北朝鮮の脅威」、「台湾海峡の危機」をそのまま鵜呑みにし、どんどん強化される方向だ。しかし本当に「脅威」なんて存在するのか。朝鮮も中国もどこかを攻撃してメリットがあるのか。すべて米国の世界戦略のなかで「脅威」を演出する必要があるからだ。

 朝鮮のミサイル実験や人工衛星の打ち上げだって、主権国家としては当然の権利だ。日本も北朝鮮沖の公海上で米国と共同演習している。朝鮮を「脅威」だと思うのは、日本人の被害妄想に過ぎない。

 また最近、日朝交渉についての世論などでも気になることだが、日本社会にアジアを蔑視する傾向が強まっている感じがする。戦前のおごった精神状態がよみがえりつつあることが、先日の石原都知事の発言にもよく表れている。こうした意識は政権与党の人間のなかにくすぶっており、表に出た時には許さず徹底的にたたかわなくてはならない。そうしないとまたすぐに出てくる。兆しが現れた時、芽のうちに摘み取らないといけない。

 日朝国交正常化交渉にしても、問題は心の持ち方だ。本当に話をする相手として認めようという気持ちが大切だ。色々と両国間で解決すべき課題は多いが、それは、同じ土俵で話し合う相手と認めあった上でしか解決できない。まずそれを認め合うのが国交正常化だと言える。

TOP記事 健康・趣味 社  会 社会・生活