交通バリアフリー法成立
高齢者、身障者の移動を円滑に
駅などにエレベーター、誘導ブロック義務化
高齢者、障害者が安心して社会生活に参加できるようスムーズな交通の移動をたすけるための、「高齢者、身体障害者の公共交通機関を利用した移動円滑化促進法」(交通バリアフリー法)が10日、国会で成立した(施行は11月)。今なぜ交通バリアフリー法なのか、健常者も障害者もぜひ、法案の中身を知っておきたいものだ。 2010年には9割が設備を利用 「ノーマライゼーション」 最近、巷で耳にするようになった「バリアフリー」という言葉。だが、この法案を国会で通過させるのに3年以上もかかった。 交通バリアフリー法の中身は、駅、バスターミナル、空港ターミナルなどを改築する場合や新しく導入する場合は、エレベーターやエスカレーター、身障者用トイレ、誘導警告ブロックなどを設置し、鉄道車両に車いす用のスペースを確保したり、低床バスを導入することなど、公共交通事業者にバリアフリー化を義務付ける。さらに、市町村が駅だけでなく、その周辺についても地域の実情に即して基本構想を作成し、関係者が協力してバリアフリー化を効果的に進めていく。障害者らが利用できるように駅の施設などのバリアフリー化の状況に関する情報を提供するなど、というものだ。 この時期に、同法案が成立した理由は、1つには高齢化の急速な進展だ。2015年には、65歳以上の高齢者が全人口の約4分の1を占める。高齢者が今後安心して暮らせるようになるためのシステム作りは、もはや人口の割合から見ても、無視できない問題となる。 また、1998年版の「障害者白書」によると、現在の障害者の数は293万人で、これまで公共交通機関を利用するに当たって、様々な問題があり、不自由を感じている。 これからはすべての人が、不自由を感じることがない「ノーマライゼーション」(健常者と障害者らが共にくらす社会を目指す考え方)のシステム作りが必要となる。 調査内容はエレベーター、エスカレーターなど移動のしやすさを考慮した設備や、視覚障害者らのための誘導ブロックの設置状況などで、結果は羽田空港駅の評価が高く、名古屋駅がわりと低かったという。 また、運輸省の調べによると、1日の乗降客数が5000人以上、高低差が5メートル以上ある駅のエレベーター設置率はJRで22%、大手民間鉄道で29%、地下鉄で47%にとどまり、状況はまだまだだが、法案成立と相まって、2010年を目標に鉄道利用者の9割が、バリアフリー化された駅を使えるように整備を進めていくとしている。 モビリティ財団では、これからも調査を続け、評価の低い公共機関に対する意識化を促していきたいという。 日本では、ようやくバリアフリーの視点が注目され始めた。公共交通機関以外の分野でも、「高齢者、身体障害者らが円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(ハートビル法)がすでに成立しており、今回の法案と並んで、高齢者、障害者の社会生活を支える大きな柱となることだ。 在日同胞社会でも障害者らを持つ家族のネットワーク組織である「ムジゲ」が、結成から5年を迎え、情報交換をしながら積極的な社会参加を志している。 ムジゲは5年目の今年、会で旅行を予定しているが、交通や施設の利用に当たって、心配される点が多いという。 交通機関や建築物が整備されれば、これからの旅行計画はこれまで以上に立てやすくなり、法案の成立は明るい材料となるはずだ。 現在障害者が外出する時は、事前に駅に連絡を入れて駅員を待機させるなど、1人で出歩くのには大変な思いをしていた。 今回の法案成立を関係者らは「ようやく」と、いう思いで受け止めている。 だが、法律や制度は対策を進めていくための手掛かりにすぎない。設備の改良や新しいタイプの車両の導入などには、取材をしたところ、かなりの時間と相当な費用が必要となる。 今後はこうした施設に対する認識も必要だ。人間は完璧な健康体でいられることはむしろ少なく、いつ不自由な側に回るか、あるいは、老後も必ずやってくるのだから、高齢者問題や障害者福祉問題を、決して特別なものとしてではなく、自分とかかわりのある問題としてとらえていく必要があろう。 (金美嶺記者) |