生活相談綜合センターに鍵
いっしょに捜す生きがい、大先輩に甘え、学ぶ気持ちを

介護福祉、足立同胞生活相談綜合センター
相談員 李智子さん


孤独に悩む同胞高齢者/介護の現場から

夜中にうなされる強制連行被害者

 現在、同胞高齢者のほとんどは、1世ですが、中には日本語が話せずに困っているハラボジ、ハルモニもたくさんいます。

 4年前に都内の養護施設で出会ったハラボジは、片言の日本語しか話せませんでした。施設の職員によるとハラボジは、日本の炭坑に強制連行され、そこを脱走した後、ずっと一人で暮らしていました。

 夜中になるとたまに朝鮮語で「金氏が来る、李氏が来る」と大声でうなされるそうです。

 ウリマルは分かるので、私がウリマルで話しかけると、日本人が朝鮮語を使っているのだと警戒して、同じ朝鮮人だとなかなか信じてくれませんでした。

 東京朝高2年生の夏休みには、群馬県の養護老人ホームでの宿泊ボランティアで、あるハルモニと出会いました。

 「朝鮮の人がいるんだけれども会ってみないか?」という園長の勧めで面会したのですが、「アンニョンハシムニカ」というあいさつにハルモニは私に抱きついて泣きました。

 「アンニョンハシムニカ」という一言を交わしただけで、情が通じあったのです。そして部屋にある、ありったけのお菓子やジュース、ポケットティッシュまでもかき集めて私に持たせてくれました。

 ハルモニには日本に身寄りがなく、それで老人ホームに入ることになったのですが、入所直前になって、他のお年寄りから「朝鮮人とは一緒に暮らしたくない」という意見が出ました。そこで園長が入所者1人ひとりと掛け合って、ハルモニはホームに入ることができました。

 いまでは仲間もできて、楽しい日々を送っているとのことですが、言葉の端々に「キムチを漬けたい、食べたい」と言っていたことが忘れられません。

 その年の秋、キムチをもって再びハルモニを訪ねたところ、ハルモニはとても喜んでくれました。一時の幸せかもしれませんが、当時の私には、それ以上のことはできませんでした。と同時に、これが在日同胞の現状なのだと痛感しました。

「してあげる」のではなく、手伝いを

 各地で同胞生活相談綜合センター開設が進み、また4月から介護保険制度がスタートしたということもあって、在日同胞の福祉問題も大きく取り上げられています。

 でも大事なことは、介護保険の制度がはじまる以前から高齢者問題があるということです。「介護してあげる」のではなく、人生の大先輩に敬意を払い、お手伝いするという気持ちで接することが大切で、決してビジネスなどではありません。

 ハラボジ、ハルモニの力になれることはなんだろうか? 私は、介護の仕事でお年寄りに接するとき(ケースバイケースだが)は、よく甘えています。人生の大先輩である高齢者に頼る姿勢が、高齢者にとっても自信につながっているのでは、と考えるのです。

 恥ずかしい話ですが、私はキムチを漬けることができません。だったらハルモニに教えてもらおう。「おばあちゃんの知恵袋」と言いますが、ハラボジ、ハルモニはたくさんのことを教えてくれるだろうし、朝鮮の風習もしっかり受け継ぐことができます。

 介護そのものについては、マニュアル化されたものがあります。抱きかかえるときに腰を痛めない方法とか、リクリエーションでボール投げをしたり、それに少し工夫を加えてチャンゴの練習や朝鮮の歌をうたうことなどが考えられますが、重要なのは朝鮮のハラボジ、ハルモニとしての生きがいを、いかにして持ってもらうかです。

 それを実現する鍵は同胞生活相談綜合センターが握っていると思います。今後、センターが同胞生活の現状を深く把握し、同胞の生活に同胞の和を広げてくれるものと信じています。そしてセンターの相談員の1人として、和の中で多くの笑顔と出会えるよう努力するつもりです。

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