春・夏・秋・冬

 「南北最高位級会談以後、寝ても覚めても故郷のことしか頭にない。早く歩けるようになって、死ぬ前に1度でいいから故郷の土を踏みたい」

▼埼玉県内に住む1世のハラボジは、見舞いにきた総聯中部支部の活動家にこう言っては、奥さんの手を借りず、杖を使わず汗だくになりながら病室の回りをぐるりと1周して見せたという。多くの1世たちもこのハラボジと同じように、故郷を片時も忘れることはなかったに違いない

▼郷土愛とは民族愛の中で最も具体的な表象ではないだろうか。私たち1世のプモ(父母)にとって、故郷は夢であり、希望であった

▼子供のころ、夕暮れまで遊びほうけた山野、紅色に咲いたチンダレ(つつじ)の花、美味しい空気と水、童謡のメロディー、素朴な方言、そして何よりも親兄弟、友達の顔…。そのどれもが、1世の脳裏にいまでもくっきりと焼きついている

▼先日、1世の私小説、伝記などをめくってみた。裸一貫の肉体労働から出発し、日本人の2、3倍働きながら、差別に負けるな、権利を勝ち取ろう、学校を作ろう、同胞社会を発展させよう、といっては同時代を精一杯生きてきた1世たちの苦悩と、統一への深い情念がありありと伝わってきた

▼室生犀星(むろう・さいせい)は「ふるさとは遠きにありて思うもの」と歌った。しかし、1世にとって故郷はあまりにも遠いものであった

▼統一のためにすべてを捧げた1世の生きざまを静かに思い浮かべつつ、黙々と統一への行進を続けていかなければならないと、決意を新たにする昨今である。 (舜)

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