南北共同宣言から1ヵ月
定着しつつある和解ムード
南北共同宣言発表に励まされて「国家保安法」の
廃止を訴えてデモ行進する南朝鮮市民(6月、ソウル)
高まる保安法廃止世論、過熱する経済協力事業熱
歴史的な南北首脳の出会い、共同宣言発表から1ヵ月が過ぎた。そしてこの1ヵ月間に南北は、対決と分断の50年間、続いてきた中傷合戦に終止符を打ち、南朝鮮では北を「敵」と規定した「国家保安法」の撤廃が公然と叫ばれるなど、市民の統一熱気が一気に盛り上がったと言える。 これを受けて南でも国防部が6月30日、「北傀(かい)」という用語を廃止すると発表した。 とくに南朝鮮のマスコミは、首脳会談を機に金正日総書記に対する呼び捨てを止め、「国防委員長」「総書記」などの肩書きを付けて報じるとともに、「朝鮮日報」などごく一部を除いたほとんどが、反目を煽るそれまでの編集方針を改め、南北の和解の実現に主力を注ぐようになった。 一時、反北宣伝の急先鋒に立っていた国営放送のKBSラジオが6月30日、「口笛」や「お会いできて嬉しいです」などの北の歌謡を、政府との協議を経て放送したことも特筆される。 そしてもっとも大きな変化は、南朝鮮市民の対北認識が根本的に変わったことだ。KBSラジオが6月26〜29日にかけて行った世論調査によると、北の歌謡を南で放送しても良いと答えたのは、83%に達した。 別の世論調査(6月25日実施)でも、南朝鮮の現行反共教育について80・5%が「現実に合わせて修正すべき」、5%が「全廃すべき」と答えた。 これらの数字は、共同宣言発表直後に実施された世論調査(首脳会談は成功97.4%、金正日総書記のイメージが良くなった97%)以降も、南朝鮮市民が共同宣言を支持し、南北和解を望んでいることを示している。 保安法についてハンナラ党は、北が関連措置を取れば改廃に応じるという相互主義を党の方針としているが、3日に行われた議員研修会では、少壮派議員から非難が続出、李会昌総裁が強引に改廃論議を封じ込めるという一幕もあった。 また、保安法改廃に反対していた連立与党の自民連も、従来の立場を変更することを表明し、その他、民国党や民主労働党、青年進歩党などの群小政党も保安法の廃止を主張している。 市民レベルでは、「保安法廃止汎国民連帯会議」が6日に国会議員会館で保安法廃止公聴会を開いたし、4日には新旧キリスト教徒と仏教徒が「保安法死文化宗教人宣言」を発表した。 まず、対北経済協力事業申請が大幅に増えた。宣言発表前、1週間当たりの申請数は1桁に過ぎなかったが、発表後は2桁に急増した。 それから経済協力に関するシンポジウムや投資説明会などが毎日のように開かれており、経済協力に携わっている企業を対象にした世論調査(6月20日)では、100%が今後、南北経済協力が拡大すると答えている。 政府の主導で民間専門家が参加する農業、情報通信、科学技術各分野の南北交流推進委が発足し、民間でも20余のインターネット・ベンチャー企業が参加する統一ベンチャー協議会が20日に発足する。 すでに経済協力を行っている現代グループは、鄭周永・前名誉会長が首脳会談後に訪北して、金剛山一帯の開発と西海工業団地造成問題で北側と協議した。 また、大規模な電子工業団地造成を計画している三星グループは、15日から18日まで代表団を派遣して詳細な内容を協議する方針だ。 カラーテレビ受像機を委託生産しているLGグループも、38度線非武装地帯の国際物流センター計画を具体化させている。 保安法廃止の世論が高まっているにもかかわらず、李漢東総理(自民連)が、保安法改廃は時期尚早との見解を示し、与党民主党も部分的改正を打ち出している。 また、共同宣言でうたわれた統一方案についても、北の低い段階の連邦制と南の連合方案との共通性を確認する作業よりも、南の統一方案が金大中大統領個人の見解に過ぎず、国民的合意に達していないといった論議に終始しているという事実がある。これは共同宣言が、南朝鮮の政治的争いの道具に利用されていることを物語る。 さらに趙成台国防長官が、北の「主敵概念」に変更はないと発言したことや、金泳三の北に対する感情的なひぼうなどは、せっかくの和解のムードに水を差すものだ。 先月の赤十字会談で、非転向長期囚問題で見せた南側の非妥協的な態度も今後、要注意となるだろう。 (元英哲記者) |