介護保険スタートから4ヵ月
同胞固有の不安は解消されたか
神戸・長田のヘルパーステーション「あすか」
同胞ヘルパーが崩す言葉の壁
今年4月から始まった介護保険制度。開始前から、言葉の壁や無年金問題といった同胞高齢者固有の問題がどうクリアされていくのかが取り沙汰されてきた。この4ヵ月弱の間に、問題はどれほど解消されたのか。同胞が多く暮らす近畿3府県の現状を見た。
「同じ民族、落ち着く」、1世同胞に安心感 日本語の分からない高さんだが、ヘルパーが同胞なので会話は十分に通じ、食事の味付けに困ることもない。家族も「介護保険には懐疑的だったが、いざ取り入れてみたら精神的にも肉体的にもすごく助かっている」という。人見知りする高さんもヘルパーには気を許している様子だった。 同胞が介護サービスを受けるうえで最大のネックは、言葉や生活習慣の違い。日本語が不自由な1世が調査員やヘルパーと意思疎通をどう図るか。制度導入当初から取り沙汰されてきた問題である。京都市伏見区の同胞業者「エルファ」所長の鄭禧淳さんによると、老人病棟で日本人ともめた同胞が退所を余儀なくされたケースもあった。 だが、実際に近畿の同胞業者に話を聞くと、重大な問題に至るケースはむしろ少ないようだ。問題が解消されたというよりも、問題が起こりにくいというのが正しいかもしれない。 1つには、要介護者50余人のほとんどが同胞という「グローバル」の例に見られるように、同胞が多い近畿の地域性がある。朝鮮市場など同胞社会が身近にあり、日本人と同胞が接する機会は多い。日本人ヘルパーからは、「言葉が通じなくとも身振り手振りでどうにかなる」という意見が多い。 もう1つは同胞ヘルパーの存在。1世のほうから同胞の派遣を求めるケースと、業者側が意識的に同胞を付けるケースが半々だが、介護を受ける側に大きな安心感を与えているようだ。 「食事を市の配給に頼っていた同胞女性が、同胞ヘルパーが来てからは配給を止め、自分で台所に立つまでになった」「アジメ(おばちゃん)と語り掛けるだけで、気持ちの伝わり方が違ってくる」とは、ヘルパーらの話。前述の老人病棟を出た同胞も、同胞ヘルパーの前では落ち着きを取り戻し、食事も十分に取るようになったという。 金銭負担では問題山積 取材した3業者によると、無年金という根本の部分が解決されたわけではないが、無年金状態で介護サービスを受ける人のほとんどは、生活保護か扶養家族の負担という形で、1割負担はクリアしているのだという。また、近畿では行政が制度の存在を積極的にPRしており、制度の周知徹底という点でも「知らないことから来るトラブルはそう多くはない」(李さん)。 ただ、危ぐすべき点は、1割負担の影に隠れがちだが、10月からは65歳以上にも課せられる保険料負担の問題。「同胞には、自ら役所に出向いて保険料を支払う普通徴収者(自己納付者)の割合が多く、うっかり払い忘れる心配がある。ここに重大な落とし穴がある」と李さんは言う。 介護保険料を2年以上滞納した場合、後払いが利くのは2年間のみで、残る期間は自己負担が3割に跳ね上がるペナルティーを課せられる。仮に5年間滞納して5年後に要介護者になった場合、2年分を払い込んでも3年間は保険料を支払えない「時効期間」に当たり、3割負担となる。 保険料滞納に危ぐ 制度を円滑に利用するうえで、同胞と業者の双方が問題点を1つずつ解決していくことは欠かせない。緊要な問題となっている同胞ヘルパーの育成については、養成講座を開講する京都をはじめ、少しずつ動きが見られる。また、地元の同胞生活相談綜合センターとのタイアップのもと、同胞の掘り起こしを図ることも必要だろう。 (柳成根記者) ◇ ◇ グローバル 大阪市生野区田島1―1―25 TEL 06・6751・6665 エルファ 京都市伏見区深草西浦町6―61 TEL 075・646・2804 ポラム 神戸市長田区林山町1―41 TEL 078・611・0826 |