需給ミスマッチ/介護ビジネスの現状
マーケティングに難しさ
リスク高い個性的サービス
利用者の選択肢狭める/IT導入が解消のカギ
4月の介護保険制度施行とともに誕生した介護関連市場。日本社会の急速な高齢化を受け、情報通信、環境と並ぶ成長分野と期待されているだけに、業種、規模ともに様々な企業が、様々なアイデアを持って参入している。が、まだ生まれたばかりで未成熟なだけに、ビジネスを成り立たせるのも一苦労の様子だ。現状と展望を見る。 「こういう土地の利用法を望む人を、見つけられないんです」 同社が今年1月に発表した高齢者住宅の低額供給プランは、新聞でも報道され一部で注目を集めた。30世帯が入居でき、ヘルパーが24時間待機する高齢者福祉住宅を、入居者が拠出する建設協力金を利用して建てるというものだ。 具体的には、まず入居者が1戸当たり1000万円を拠出。W社がこの拠出金を地主に無利子で貸し、住宅を建ててもらう。入居者は毎月数万円の管理費を地主に支払い、地主はその一部を、W社への返済に当てる。 これだと、入居一時金が最低でも3、4千万円と言われる有料老人ホームより入居者の負担は減り、地主は未入居リスクの回避、無利子資金の利用というメリットを享受できる。W社は、地主からの返済のほか、介護サービスの手数料などで収入を得る。 高齢化と地価の下落、少子化による住宅需要の低下――日本社会の今後を考えると、W社の案は合理的だ。しかし、その先見性ゆえに、逆に一般にアピールする部分も少なく、あるはずの需要をつかめない。協力してくれる地主を住宅会社と組んで探したが、「自分の土地を、福祉分野で生かそうという意識は開発されていない」(関係者)。 介護ビジネスの市場規模は、介護保険の給付対象外になる関連分野まで合わせると、八兆円を超えるとされる。だが、市場規模こそ大きいが、事業者がニーズをつかむのは容易でない。 店頭でものを売る商売などとは違い、介護事業者は個々の利用者の需要を一つひとつ集めねばならず、よほどの大企業でもないと広範なマーケティングは難しい。小規模の事業者が個性的なサービスに乗り出すにはリスクが高く、結果的に似たような事業者が地域内で競合することになる。 これは、選択の幅を狭めるという意味から、利用者にとっても不利益となる。 大阪市生野区の市民グループ「アジアハウス」は、週に5日、地域の高齢者を対象とした配食サービスを行っている。 価格は1食当たり400円で、1日に30食弱を出している。市の社協から1食150円の補助を受け、高齢者からは配達費として別途百円をもらっているが、採算割れの状態だ。 重慶子代表は、「40食位出ればトントンになるが、それでも配達係はほとんど持ち出し。一人暮らしも多く需要はあるはずだが、何せお年寄りなので誰かの紹介なしにはアクセスしてこれない」と話す。 また地域柄、在日同胞からも問い合わせがあるそうだが、「対応したいのは山々。でも、現時点で味の好みなどに合わせる余裕がない」(重代表)のが実情だ。 情報ネット構築 W社、「アジアハウス」の例はともに、介護市場における需要と供給のミスマッチを示すものだ。どこかにあるはずの需要、潜在あるいは散在する需要をマーケットとして成立させられなければ、多彩なサービスは成り立たない。 こうした現状の打破に向け、活発化しているのが情報技術(IT)の導入だ。 今の所、目立っているのは、訪問介護のヘルパー派遣を効率化する取り組みだ。例えば、ヘルパーに携帯端末を持たせて日程を管理し、介護実績の整理や報酬請求を容易にして事業運営のコストを減らそうというもので、企業が競って端末やソフトを開発している。 そして、より注目されるのが、通産省が取り組んでいる介護情報のネットワーク化だ。 自治体の在宅介護支援センターを核に、事業者と高齢者の自宅を双方向のケーブルテレビ(CATV)などで結び、高齢者は事業者のサービスや実績などの情報を、事業者は高齢者の利用意向を入手できるようにする。また、行政にはそれらの情報を蓄積したデータベースを築く。これが成功すれば、事業者はマーケティングの負担がぐっと低くなり、サービスに工夫を凝らす余地も出てくる。 物理的な距離を超え、需要と供給をマッチングさせるのは、インターネット最大の特徴だ。これが介護分野で生きるかどうかは、同胞向け介護サービスなど固有のニーズを持つ在日同胞社会にとっても、無視できない問題だ。(金賢記者) |