春・夏・秋・冬 |
猪飼野――かつて済州道から「日本国猪飼野」で手紙がついたと語り伝えられる大阪市生野区の一画。同胞の多住地域で、1972年の町名変更でその名は消えた。だが、同胞は今も「イカイノ」と呼んでいる。その「イカイノ」の中で同胞が多く住む場所の一つが鶴橋だ
▼幼い頃、オモニに連れられて冠婚葬祭、解放記念日、開校記念日、花見など同胞が集う場によくいった。すると、決まってみな、色とりどりのチマ・チョゴリに白いポソン、コムシンをはいたハラボジ、ハルモニの姿があった ▼大声で朝鮮語で言葉を交わしながら、腰を突き出しがに股で、ぞろぞろと道を歩く。「ここは朝鮮」かと彷彿させるほど、しばしばその光景に圧倒された。が、そんなハルモニたちのたくましい姿に、言い知れぬ感動をおぼえたものだ ▼近所に住んでいたハルモニから、戦争中、真っ白な民族服を着て歩き、日本人に墨をかけられたという話を何度も聞いた。また年に2回、 里帰り した時に町で出会うと、ハルモニは決まって同じ言葉を発した。「アイゴ! あの鼻たれ小僧がこんなに大きくなって」 ▼しかし、もうハルモニの姿を見ることはない。3年前に病気で亡くなった。そして「イカイノ」も民族服ではなく、洋服姿の同胞たちで、町の風景が様変わりしている。顔、姿、言葉では、日本の市民と区別できないほどに ▼明日、8・15を迎える。幼い頃の目に焼きついたハルモニたちの姿を思い浮かべ、「イカイノ」という磁場で、過去と現在がどう交差したかを、しばし黙考したい。(舜) |