同胞プロボクサー洪昌守(25)

初の「在日」世界王者めざし 27日に挑戦

自分のため、同胞のために勝つ 


相手は南の゙仁柱
会場で「われらの願い」流す計画

 在日同胞プロボクサー、洪昌守(25)が27日、大阪市の大阪府立体育会館で行われるWBCスーパーフライ級タイトルマッチで世界に初挑戦する。同級4位の洪の挑戦を受けて立つ王者は南朝鮮の゙仁柱。南北首脳会談後の南北和解ムードの中で行われる「同胞対決」とあって注目を集めている。トランクスに「KOREA IS ONE」と刺繍を入れ、リング上で統一への思いをアピールし続けてきた洪サイドの要望により、試合前には双方の国歌ではなく統一を願う「われらの願い」が流される予定だ。(※試合の結果は当日夜8時前後、本ページにて速報予定。ただし試合経過などの都合により変動もあり)

風は自分へ

 王者と挑戦者、ルーツを同じくする2人のボクサーの背景に朝鮮半島の地図。コピーは「俺は世界のてっぺんに立つ! リングの上に38度線はない。願いは統一」――試合を告知するポスターのデザインだ。ポスターが刷り上がった日は、歴史的な南北首脳会談の初日だった。

 「南の選手とやると決まって、正直言って最初はちょっといやだと思った。やっぱり同胞同士たたかいたくないっていうか。でもそんな時に実現した南北首脳会談。ジーンと来た。時代の風が自分の方に吹いてきた感じ。今は、『リングの上に38度線はない』っていう気持ちそのまま」
 日本のメディアはもちろん、ソウルからの連日の取材攻勢にも「注目されるのは好きだし、むしろそれを力にしている」と笑顔だ。

 これまで、在日ということを公表した選手で世界王者はいないという。その意味でも歴史的な試合だ。

応援に感謝

 彼にとっては「当たり前」のことだが、在日であることを公言していることで、不利益がなかったと言えば嘘になる。

 今回の試合も、テレビ放映の予定はない。普通は放映料がファイトマネーや会場費にあてられるが、今回は後援会の寄付やチケットの売り上げでまかなわれる。出身地の東京・大田、居住地の大阪・東成、ま 
たボクシング関係者をはじめ多くの同胞たちが今回の試合を支え、応援している。

 「ただ朝鮮人というだけだったらここまで応援してもらえなかっただろう。朝鮮人として、ボクサーとして、やることはやっているという自負はある」と話す彼は、朝青東成支部・大成班の班長を務める。

 先日の2度目の防衛戦を観戦したある日本の学校に通う同胞生徒は、「俺、朝鮮人に生まれてよかった」と言っていたという。

 「そういう話を聞くと、自分のやっていることは間違いじゃないんだって、本当にうれしくなる」

 同胞からのファンレター、それも、各地の朝鮮学校の子供たちからの寄せ書きが数多く寄せられているという。

 「自分の見えるところだけでなく、知らないところでもみんな色々と動いてくれているようで、本当にいくら感謝しても足りないくらいだ。期待は重荷にはならない。応援してくれる同胞たちに喜んでもらうためにも絶対に勝たなくては」

「歴史の人」に

 「まさか自分がこんなところまで行くとは思っていなかった。世界チャンピオンを目指してやってきたというよりは、やっているうちにここまで来た感じ。最近、やっと分かったんだけど、ボクシングが好きじゃなければここまでやれなかったと思う」

 だから、東京朝高を卒業してアマチュアを引退した時、そして3年前に日本タイトルに挑戦して失敗した時、計2度のブランクから2度とも厳しい世界に戻ってきた。2回目の時は、「1年間遊びまくりながらも、どうせまたやりたくなるだろう」と自分で分かっていたという。

 「ボクシングはただの殴り合いじゃない。めちゃくちゃ奥が深い。相手との間の目に見えない駆け引きに勝って、自分のパンチが相手に先に当たった時に幸せを感じるというか」

 「今ここで終わったら、ただの『時の人』で終わってしまう。でも試合に勝って世界を取れば、『歴史の人』になれる。運は強い方だ。絶対に勝って、歴史に名前を残したい。そうすればウリハッキョ(朝鮮学校)の教科書に載るかなあ」

 目を輝かせ、冗舌に語る挑戦者は、大舞台を前に、自分で自分のモチベーションを高めようとしているようにも見えた。連日ハードな練習をこなし、出来上がりは順調だという。

 「あまり緊張はしていない。とにかく試合を見て、見たまま感じて欲しい」
(韓東賢記者)

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