ことわざ辞典
婚姻の後で屏風を立てる
「婚姻のあとで屏風を立てる(ホニンティエ ピョンプンチンダ)」
時すでに遅いことのたとえ。類語に「後の祭り」がある。 ◇ ◇ 昔あるところに高名な医者がいた。不治の病でもこの医者にかかると、たちどころに治ってしまうというので、噂を聞いた病人が全国から医者を訪ねて、門前に長蛇の列をつくるほどの盛況ぶりであった。 この医者の処方する薬のなかには、死人をよみがえらせる妙薬があった。年老いて死んだ人にこの薬をぬると生き返るばかりか、再び若返る、という不思議な薬であった。しかし、この薬を調合するのはとても難しく、またその薬草を手に入れるのが並大抵でないので、この医者はやっと1人分だけを作って、秘密の手箱の中にしまっておいた。 いつしか歳月が流れ、医者もすっかり年をとって重い病気にかかり、ただ死を待つばかりであった。しかし、医者は少しも心配する気色がなかった。それもそのはず、手箱の中に不死の妙薬があったから。 名医は臨終まぎわに、信頼している弟子をそっと枕元に呼びよせ、例の妙薬を手箱から取り出して言った。「お前が私を救っておくれ」。 何日が過ぎ、名医は死んだ。弟子は死体の足の裏から薬をぬりはじめ、すねからふくらはぎ、ひざから太ももへと、だんだん上半身へとぬっていった。すると、氷のように冷たかった全身がしだいにぬくもりはじめた。 薬瓶を見ると、薬はまだ半分ほど残っていた。弟子はとっさに悪い考えにとりつかれてしまった。 ――先生はもうお年よりだ。それより自分こそ長生きしなくては――。 弟子は薬瓶のフタをしっかりしめてしまった。そして先生の様子を見ると、いままで動き出していた足は身じろぎもしなくなり、体はもとのように冷たくなってしまった。もう手遅れであった。 それからまた歳月が流れ、弟子も重病をわずらった。ある日、弟子は愛息を枕元に呼びよせ薬瓶を手にしっかり握らせて、薬の使用方法を詳しく教えた。 やがて父は息をひきとった。息子は父の教えどおり薬をぬった。薬を腹から背にかけてぬりだすと、足が動きだし、胸までぬると心臓がかすかに鼓動しはじめた。 だが、もうそのときは、薬が一滴もなくなってしまった。元から薬は1人分だけしかなかったからだ。冷たくなっていく体をさすりながら、息子は「アボジ!」と号泣するばかりであった。こうしてその妙薬は、ついに世に伝えられることはなかった。 |