巡りくる九月一日に
石原都知事「三国人」発言の何が問題なのかを読む
4月、陸上自衛隊練馬駐屯地で「三国人」の「騒擾事件」という根拠のない予断と偏見を流布した石原慎太郎東京都知事の問題発言から5カ月。発言直後に「差別用語」とメディアで騒がれたものの、今なお都知事がリコールされたという報道はない。
作家の辺見庸氏は「石原知事の三国人発言は、彼の信条からして予測可能であった。むしろそれに対し普通の人々があまり反発を示さないのが今日的な危機」と朝日新聞(4月21日付)で指摘していたが、石原発言で浮上した問題はまさに六、七割を超す都民がこれを支持した事にある。そして、その都民の選んだ都知事が、今夏靖国神社を公式参拝したのだ。 その様な石原発言の渦中で緊急出版された、「石原都知事『三国人』発言の何が問題なのか」(影書房刊、内海愛子、高橋哲哉、徐京植編)では3氏による緊急座談会、様々なポジションの文化人や知識人など17人の論考、石原発言の全文や内外の反響を収録し、石原発言の持つ問題性と危険性を余すことなく明らかにしている。読むほどに、石原発言に潜む闇を見るようで背筋がぞっとする。 「三国人=不法入国=犯罪者」という断定、戦後の闇市神話での「日本人が彼らにひどい目にあった」(石原都知事)という言説は、「敗戦後日本の屈折した原風景から生まれた『被害者意識共同体としての日本』の強固さ」を表し、一方では、「不法入国」や「オーバーステイ」の外国人が日本の社会で苦難を強いられている現実、そういった外国人の労働力がなければ成り立たない日本の現状には一言も触れないことについて、筆者たちは言及している。 数ある論考の中でも慎蒼健氏の「石原発言は、私たち外国人を分断し、 被害者意識共同体としての日本』に加わることを求める1つの装置なのである」という指摘は鋭い。 そして石原発言は「不正確で間違った情報で外国人への恐怖を煽ったという意味で差別とか、排外主義とかいうものではなく、煽動」(内海)であり、その内面化された外国人差別について、多くの筆者がオーストリアの極右政治家ハイダーとの類似性を見出し、関東大震災の朝鮮人虐殺を彷彿とさせる論拠を示している。座談会、論考を読む過程で漠然とした不安は都知事に対する拒絶と怒りに変わり、石原発言の全文を読み直す事で「何が問題なのか」をはっきりと読み取ることができる。 まもなく9月1日。関東大震災の朝鮮人大虐殺から77年になる今年、自衛隊を大動員した防災訓練が実施されようとしている。私たちは歴史を逆転させようとする力に強い警戒心を持つべきだろう。 (榮) |