NHK青春メッセージ審査委員特別賞
許琴伊さん(東京朝高1年)のスピーチ

「大きな世界地図が欲しい」


 小学4年生の頃、私は地図にはまっていた。地図がすっごく好きだった。今考えると自分でも変なやつだと思えてくる。でも、とにかく地図が大好きで、大きな地図を買ってもらうのに必死だった。だって自分専用の地図があれば、好きなときに好きな国を見れるし、海の広がる世界と、その上に浮かぶいろんな国。そんな地図を見ていると不思議な気分になった。

 私がお父さんに「地図買ってー」とねだっても、小学生の私には必要無いと思ったのか「今度ね」「後でね」と軽く無視された。毎日のようにねだったあげく、やっとの思いで買ってもらった私の背丈ぐらいの大きな地図。そのときは本当にうれしかった。

  そんな地図をいつも見られるように部屋の壁に張り、弟と一緒に地図を見ながら、いろんな国の名前を覚えたりもした。もちろん朝鮮がどこにあるのかも探したが、2つに分断されている事については、深く考えもしなかった。親や先生からそのわけを聞いてはいたが、2つに分かれている事はしかたのない事で、早く統一したらいいのに、なんて思いもしなかった。

 ところがある日のこと、そんな私の胸をさわがせる大事件にあった。その日、制服のチマチョゴリを着た私は部活を終え、駅の地下街を友達と歩いていた。すると、デパートの食品売り場からおいしそうなにおいがしてきた。腹ぺこな私達はたえきれず、デパートの中に入って行った。

  団子屋の前を通りかかった時だった。「南北会談おめでとう」と突然言われ手を握られた。40才くらいのおじさんだった。「本当におめでとう。よかったね、南北会談がうまくいって。本当によかったね」友達は「はい」と答えていたが、あっけにとられた私は二人の話をただ聞いていた。別れ際におじさんは買ったばかりの団子をくれた。「これからも仲良くしよう。これからもよろしくね」とまた握手をかわし、おじさんは去っていった。それからもらった団子を駅のホームで食べた。団子はとろーりとして柔らかく、そこにきなこをまぶして食べたら本当においしかった。

  どこからどう見てもおじさんは日本人だったけど、私達の国のことを自分のことのように喜んでくれたおじさん。そんなおじさんがくれた団子だから、よけいにおいしかったのかもしれない。いつもはチョゴリを着ていてまわりの人からさけられたりもしていい事はなかったが、この時はじめて良かったと思った。

 私は、まだまだ遠く感じていた統一が確実に近くに来ているような気がした。これが現実になればいいのに…。21世紀には朝鮮半島だけでなく、世界の国々が国境線なんか無視して、仲良く行ったり来たり出来る日が、1日も早く来れば良いのにと思っている。

 今、地図好きの私には大望がある。それは、新たな世界地図を買うことだ。2つが1つになった時に完成する、大きな大きな世界地図。1年後、2年後、いつになるか分からないが、私はこの日がくるのを心から待っている。

 日本中の皆さん。私の大望が1日でも早くかなうように、おじさんみたいに応援してください。

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