創作民話
6匹の夜光鬼と遠めがね
李慶子
その年は、近年にない凶作だった。夏におきた大雨で田んぼがつかり、稲どころかあわもひえも全滅した。それだけじゃない。3日にあけず地面がゆれて、縦に横にと畑がひび割れた。
「正月がくるってのに、このまんまじゃ、みんな死ぬしかねぇ」。たまぁに顔みせる、底抜けに晴れた空を仰いで、村の衆はなんじゃかんじゃ一生懸命祈ったが、いっこうに効き目なぞ、なかった。 むろん村の衆はしらなんだが、地震も大雨も、みんな、青い空の向こうで春さきうまれた6匹の夜光鬼(ヤグァンギ)のしわざだった。6匹は一緒にうまれてきたから、だれが兄さんで弟かわからん。顔も体もまるっきり同じときたから、見分けるのになんぎした。 6匹は力がむくむくわいてくる、おそろいのわらじを父さん母さんに編んでもらって、人の子の倍の早さでずんくずんく大きくなった。大きくなるにつれ、悪態ついて、朝から晩まで悪さばかりした。
そんなわけがあるともしらず、村の衆はふるえていたが、たったひとり、平気のへいざがいた。 わずか10になったばかりのホドリだ。からだはちっこくて、ごんぼみたいに細いのに、肝が座ってるというか。 穴のあいた筒をちっこい目んたまにあて、朝な夕な天ばっかのぞきこんで「ありゃ、夜光鬼のしわざだ」と、ひとり笑いした。 その筒はな、今は亡くなったホドリのじっちゃんが、ニンニクとヨモギの葉でいぶした、かたい栗の木でこしらえてくれたもんだ。 「千里、万里がみえるぞ」 じっちゃんのいうたとおり、筒は遠めがねのように、なんでもみえた。 「やいやい、おらと勝負しろ」「してもよいが、勝ったらなにくれる」 「おらの、遠めがねだ。おらが勝ったらその、わらじをもらう」「ようし、わかった」 夜光鬼の子は山をつまんで、ちょんぎってわやわやなげた。 「まぁだ、まだ」 ホドリは山の切れっぱしを右手でひょいひょいつかんで、天へほうりなげた。 こんどは、低い雲がたちこめ、ざんざこ雨がふりだした。 ホドリは筒で風をおこして雨の流れをかえた。風は天にとどいて、夜光鬼の子のわらじをかっさらっていった。 「おらの勝ちだ。返してほしくば、10数えて取りに来い」 けんど、夜光鬼の子は1つ、2つ、3つしかいえん。4つはよう数えん。 「ふんなら、正月の晩までまってやる。取り返すまで悪さするなぁ」 正月の晩、そろりそろりとおりてきた夜光鬼の子は、ホドリの草家の前で1つ、2つ、3つと数えたが、やっぱり次がわからんでアチャ、アチャいうて、天にかえっていった。 ※アチャ=しまったの意。夜光鬼はアチャ鬼ともいう。 ◇ ◇ 【リ・ギョンジャ】児童文学作家。福井県敦賀市生まれ。帝塚山学院短大卒。朝鮮画報社記者を経て児童文学に。作品に「金鉄(キム・チョル)なんか いやや」「ヨンランのはた」他。東京書籍の「新しい国語」(上、小学3年)に民話「テウギのとんち話」が使われている。 |