春・夏・秋・冬 |
先日、定年を迎えたある記者のために、ささやかな祝賀会が開かれた。当然会費制である。しかし、当日の会場費、参加者の飲食代ともその記者が負担していたことが後でわかった。会費を集めたのには違う目的があったのだ
▼都内新宿区にある某乳児院が老朽化していることから、改築が必要となり、募金にあてようというのが目的。あいさつに立った本人の口からその事が発表されると、場内からは割れんばかりの拍手が起きた ▼1946年に創設されたその乳児院は、0歳から2歳までの、家庭で育てることが難しい子供たちを預かって養育してきた。その背景に貧困があったことは言うまでもない。そして、今でも年間のべ約400人の赤ちゃんが入退所しているという。父母の家出、離婚、未婚出産、母親の病気、就労など入所理由はさまざま。家出、離婚に伴い乳児を預けて働かねばならない母親たち。社会全体が豊かになったとは言え、貧困の問題が根絶されたわけではない。長引く不況がさらに拍車をかける ▼入所理由として昨今増加傾向にあるのは、幼児虐待、養育不能などだという。未婚を含め若年母が増え、心の不安定から虐待、養育拒否に走る。親が子供を虐待したあげく死に至らしめる心痛む事件は連日のように伝えられる。そんな子供たちにとって、乳児院は「駆け込み寺」なのかもしれない ▼第2の人生をスタートさせた彼は、「今後はボランティア活動にも精を出したい」という。人のために何ができるのか。在日社会においても提起されている切実な課題である。(聖) |