恐るべき受動喫煙

早産、流産、死産、低体重児出産のリスク
肺ガン、心筋梗塞、脳梗塞の原因

群馬大学医学部教授・鈴木慶二


発ガン物質は100倍

 新幹線の車両で煙が充満し息も出来ない状態の喫煙車両に乗車したことのある人は、このようなたばこの煙の中でよく居られるものだと感心する人が多いと思います。たばこを吸わない人にとって電車などの車内でたばこを吸う人と隣り合わせた時のたばこの煙は大変不快なものです。

 たばこの煙には喫煙者の吸う主流煙と吸わない時に出る副流煙とがあるが、たばこを吸わない人は、喫煙者の出す主流煙と副流煙の両者にさらされるわけです。これは喫煙者の能動喫煙に対して受動喫煙といい、たばこ環境喫煙(enbironmental tobacoo smoke)とも言われます。

 たばこ環境にいる人々は喫煙者によってたばこを吸わされているわけで、とくに強制的に受動喫煙と強いられているのは、たばこを吸う夫をもつ家庭の主婦ではないでしょうか。フィルターを通した主流煙より、この副流煙の方が身体により有害な物質を含んでおります。たばこには人体に有害な物質が4000以上あると言われ、そのうちの発ガン物質は副流煙の方が主流煙に比べ20〜100倍も多いと報告されています。

深刻な死亡率

 夫の家庭内での喫煙に関し、夫が非喫煙者である場合を1.0とすると、夫が喫煙者で1日たばこを20本以上喫煙した場合、非喫煙者の妻の肺ガン死亡率は1.91倍であり、喫煙しない妻に肺ガンの危険を及ぼしているのは明らかです。

 家庭の主婦ことに妊婦の喫煙は、妊娠、分娩に種々の悪影響があり、たばこは早産、流産、死産、低体重児出産などのリスクを増します。また、受動喫煙による妊婦への影響としては、低体重児出産が明らかですが、たばこの有害物質は母親の胎盤を通って直接胎児に影響を及ぼします。たばこの中には胎児に奇形を起こす物質や遺伝子に突然変異を起こす物質が含まれており、妊娠中に喫煙した母親から生まれた子供に白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍などの小児悪性腫瘍が好発すると言われており、能動喫煙のみでなく、受動喫煙によっても同じことが起こると考えられます。

 最近女性の喫煙が増えておりますが、女性は出産という大切な役割があり、妊娠を知った時期には胎児はかなり発育しているものです。喫煙の習慣はなかなか止められないものであり、女性の喫煙、たばこ環境喫煙は戒めるべきです。

 子供への受動喫煙は、成長する子供への影響も大きく、新生児がベッドで突然死亡する乳児突然死症候群は、乳児の周囲で喫煙者数や母親のたばこの本数に比例して死亡例が多くなると言われております。また、たばこは小児のぜんそく、鼻炎の発生のほか発育障害や計算力、文章の読解力の低下などに影響していることを知るべきです。

 成人では受動喫煙によって肺ガン、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化、肺気腫などの肺機能障害などのリスクが判明しております。アメリカでは年間3万から6万人がたばこ環境喫煙の影響で死亡していると推定され、受動喫煙は願い下げにしたいものです。

日本語版TOPページ

 

会談の関連記事