京都コリアン生活センター
「エルファ」奮闘記(3)

同胞社会を「一つ」の流れに

見学者は後を絶たない。デイサービス施設を訪れた横浜市の日本人教員と京都第1初級の児童たち(8月、京都市南区)

画期的な法内容

 1998年3月、日本で特定非営利活動促進法(NPO法)が成立した。NPOとは民間非営利団体、つまり営利を目的としない団体を指す。NPO法は日本の公益法人制度を百年ぶりに大変革するもので、市民によるボランティア活動に法的基盤を与えるという画期的なものだった。

 NPOに目が向いたのは、同胞社会で大きなニーズになっている福祉や民族教育問題を充実させるための活動に活用できると思ったからだ。

 NPO法人がカバーする分野は保健・医療または福祉、まちづくり、国際協力など12の分野。志がある人が10人集まれば、資産なしで法人格が取得できる。国籍条項はない。事業収益を目的達成のための活動に充てられる点も新しい。

 何より法人格を取れば社会的な信用が得られる。以前もボランティア活動をする団体が法人格を取得する道がなかった訳ではないが、一定の資金が必要など簡単ではなかった。

 構想から2年。企画力、実行力のある人を理事に登用するため走り回った。そして理事長に愼英弘・花園大助教授、副理事長に仲尾宏・京都造形芸術大教授と田中宏・龍谷大教授、理事には実践力のある女性同盟支部委員長経験者に就任してもらった。理事や職員と相談しながら定款をはじめとする膨大な書類をそろえ昨年10月、所轄の京都府にNPO法人の認証を申請、今年1月に認証が下りた。

福祉、民族教育

 「エルファ」の活動目的は5つ。@同胞高齢者のルーツと現状に基づいた介護事業A同胞の子育て(民族教育)を支援するボランティア活動B同胞障害者を支援するボランティア活動C異文化交流促進D京都に現存するコリアンの文化財保護と発展のためのボランティア活動――だ。

 NPO法人は今までにない新しい組織の形態だ。この組織を通じて私は2つのことにチャレンジしたかった。

 ひとつは、分断の歴史を背負った同胞社会を「統一」「一つ」の流れに引き寄せることだ。

 「エルファ」のデイサービス施設には、総聯だけではなく民団や民族団体と関わりのない同胞高齢者も訪れる。政治的な見解の違いから険悪な雰囲気になることもある。しかし、政治とは関係なく、皆がこのような場を求めていたのは同じだ。生活の場でこそ「統一」は生まれる。

 デイサービス施設を建てる時、寄付や寄贈が相次いだ。朝鮮籍や韓国籍の同胞、日本人もいる。彼らが車、ピアノ、テレビ、机などすべてをまかなってくれた。

 この建物で、同胞聴覚障害者を講師に迎えた「朝・日バイリンガル手話講座」や同胞障害児を対象にしたイベント「音楽で遊ぼう」も開くことができた。1世を支えたいとボランティアを申し出る同胞は後を絶たない。京都の同胞福祉を支えるため、さまざまな同胞があらゆる垣根を越え、手を携えている。

日本社会変えたい

 もうひとつは、「エルファ」を媒介にして同胞と日本市民の友人関係を築きたかった。介護の現場で1世の姿を見ながら強く思ったことである。今後3・4世が朝鮮人として堂々と生きるためにも必要だと思った。

 例えば86歳で独居老人のAさん。ある行政の福祉課からAさんとケースワーカーとの間でトラブルが生じたので来てほしいとの連絡を受けたことがあった。飛んで行ったところ、Aさんは介護サービスの申請に必要な印鑑の提出を求められた時、急に怒り出したという。Aさんの言い分はこうだ。

 「俺たちはハンコのために日本に連れてこられたんだ。わしの親も内容も知らずにハンコを押して土地を奪われたんだ」――。

 「土地調査事業」の苦い記憶だった。民族受難の歴史を一身に背負った1世の「心のバリア」は簡単に解けるものではない。しかし、対応した職員は過去の歴史に無知だったことからAさんがなぜ憤激したのかわからない。これはほんの一例だが、日本の福祉制度は1世の歴史や現状を考慮したものではない。

 同胞高齢者が置かれた現状は、在日朝鮮人をありのままに受け入れられない日本社会を象徴している。

 だからこそ「エルファ」を拠点に朝・日のかけ橋をかけたい。デイサービス施設の2階にあるスペース「ハナマダン」を地域に開放し、訪問者も積極的に受けつけている。9月に入って「エルファ」で初めて京都市外国籍市民施策懇話会の会議が開かれ、外国人市民を対象にした朝鮮料理教室も行われた。うれしかったのは清水寺の森清範住職らの呼びかけで11月に「エルファ友の会」が結成されることだ。

 互いを尊重し、支え合う関係が具体的な実践を通じて築かれている。(語り・鄭禧淳所長、整理・張慧純記者。つづく)

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