閑話休題

ピカソの「ゲルニカ」

比類なき「苦痛と死の大海」


 20世紀絵画の代表作を1点だけあげよ、と言われたら何を選ぶだろうか。多くの人がやはり挙げるのはピカソの「ゲルニカ」ではないかと思う。

 その荘厳さ、真実を描こうとする洞察力の鋭さにおいて他に比類はない。

 1937年、スペインのフランコ軍を支援するナチス・ドイツとイタリアの空軍がバスク地方の小都市ゲルニカを爆撃し、一般市民に多数の死傷者が出た。ドイツ軍とフランコ軍との協力関係の規定に空軍は「民間人に対する配慮なしに攻撃するべき」と記されていた。ゲルニカへの爆撃はまさに「南京、コヴェントリー、ドレスデン、東京、広島、長崎、ハノイへと続く戦略爆撃、すなわち非戦闘員をも標的とする無差別爆撃の時代へと人類の戦争史の悪夢に1頁を開いた」(徐京植著・「青春の死神」)残酷なものだった。

 この絵の製作中、ピカソは世界に向けてメッセージを発表し「我がスペインを苦痛と死の大海に沈めた軍閥への憎悪を私は断固として表明する」と述べた。その言葉の通り、ピカソは祖国の大地をじゅうりんしたフランコを生涯許さず、フランスに亡命中、91歳で死去した。

 「ゲルニカ」がスペインに戻ったのは、フランコの死から5年後の1981年のことだった。

 偉大な芸術家が描いた無差別爆撃の惨状。そこから浮かび上がってくるのは、果てしない人間の苦痛であり、醜悪な戦争の真実であった。

 ひるがえって、「米国の報復戦争」。星条旗を鼓舞する報道の垂れ流しからは、人々の苦悩が全く伝わってこない。

 「空爆は皆殺しの思想から生まれた」と語ったのは、軍事評論家の前田哲男氏だ。戦争の本質を直視し、そこで苦しむ人々を忘れてはなるまい。(粉)

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