「動き出したドイツ強制労働補償基金」

拓殖大  佐藤健生教授が講演

過去と闘う独、隠ぺいする日本


講演する佐藤健生さん
(5日、東京都内で)


 今年6月15日、かつてナチス政権下で強制労働に従事した生存者に対する、ドイツ強制労働補償基金の支給が開始され、最初の分配金として2億1300万マルクが、3つのパートナー組織(ポーランドに5700万、チェコに5600万、ユダヤ人請求会議に1億マルク、対象者は各1万人)に対して支払われることになった。ドイツでは敗戦後、戦争責任の追及や補償問題に対する取り組みが積極的に行われてきた。それらは自らの手でナチス戦犯を有罪にしたことや、ナチスによる殺人の追跡と捜査が現在に至っても行われていること、ナチス礼讃は刑法違反、「ユダヤ人虐殺はウソ」などと公言すれば、民衆扇動罪に問われるという事実からも伺える。「動き出したドイツ強制労働補償基金」について、拓殖大・佐藤健生教授の講演をメインに、5日、東京・千代田区の九段社会教育会館・第1学習室で勉強会が戦後補償ネットワーク、千代田・人権ネットワークの主催で開かれた。

 1999年12月、ドイツ政府は第2次世界大戦中にナチス政権がユダヤ人や東欧諸国民に課した強制労働について、ドイツ企業と合同で被害者への補償財団を設立することを合意した。

 きっかけとなったのは、アメリカでドイツ企業を相手取った強制労働損害賠償を求める集団訴訟の動き。

 ドイツ政府は「基金」発足にあたって、集団提訴を防ぐ措置をアメリカ政府との間で取り決めることを求めて交渉を続けていた。そして、99年末にドイツ政府と企業がそれぞれ50億マルクずつ、100億マルクを拠出することを決めたことで、法的安定性が確保された。

ドイツ企業の出し渋り

 しかしその後、支給金額とその内訳がはっきりし、翌年8月には補償財団設立法が発効されているにもかかわらず、企業側の基金の集まりが良くなかったために、補償金の支給額2億マルクが2001年6月になってようやく被害者に支払われることになったと、佐藤教授は指摘する。

 そして、基金への納入状況が、政府側は50億マルクを2000年12月31日に捻出しているのに対し、企業側は50億マルクの基金を、10ヵ月遅れの2001年10月5日に、利息分1億マルクをつけて、ようやく捻出したと、企業側が乗り気でなかったことを指摘した。

 補償金給付は、2001年12月末までに、約60万人を対象に、100億マルクのうち約25億マルクを支給する予定になっている。

 「1マルクは日本円に換算すると、約56円。ドイツ政府と企業がそれぞれ50億マルクずつ拠出する100億マルクは、約5600億円に相当する。被害者に対しては1人当たり、強制労働の内容に応じて5000マルクから15000マルク(約28万〜84万円)が支払われる」

問われる日本の姿勢

  ドイツの強制労働補償基金が被害者たちに給付されるまでの間に、実にさまざまなう余曲折があったが、政治的にも経済的にも戦後問題に積極的に取り組んでいるドイツにくらべ、日本のそれとは雲泥の差がある。

 「ドイツは、戦前とは違うんだ、ということをはっきりと示している。今のドイツを見て被害者たちは、今後はそうならない、同じ過ちを二度と繰り返さないという安心感を覚えるだろう」。しかし、「日本は、戦前と変わらないと言うのが問題。教科書問題や首相の靖国神社参拝問題をとっても、アジアの人々は死んでも死にきれない」と、佐藤さんは強調する。

 ドイツは現在、被害者たちに対する補償を先行させながら、強制労働の実態に対する調査を引き続き継続して行く姿勢を見せている。一方日本は、「証拠がない」、「サンフランシスコ条約によって決着済み」と主張、戦争責任を認めず、補償に応じようとはしていない。

 国家ぐるみで過去から逃れようとする日本に、国際社会から厳しい批判があびせられているのは周知の事実である。

 生存者のほとんどが高齢であることを考えると、過去の清算は急がねばならない。(金潤順記者)

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