月間平壌レポート  2001.11

笑みがこぼれる冬支度

経済復興に向けて確かな手ごたえ


 11月に入ると平壌は急に寒くなる。朝の最低気温は連日、氷点下まで下がる。27日には市内に初雪が降った。

 11月の平壌の風景といえば「キムジャン(キムチ漬け)」。朝鮮の伝統的な風物詩である。各家庭で冬の間に食べるキムチを漬ける。

 白菜、大根など数百キロの素材を味付けし、さまざまな容器に保存する。「キムジャン」を行う日はオモニが決める。家族が総動員される大仕事だが、その日は共同作業を通じて妻と夫、親と子のきずなを確かめる団らんのひとときでもある。高層アパートが立ち並び「核家族化」が進んでいるといわれる平壌でも、そんな昔ながらの風景を見ることができる。

 白菜を山のように積んだトラックが市内の通りを走ると人々は冬の訪れを実感する。毎年、繰り返される「キムジャン」ではあるが、今年は新たな要素も加わった。キムチ漬けのための乳酸菌や保存のための防腐剤が製品として開発され市民たちに供給されるようになった。国家が経済的な苦境に直面した「苦難の行軍」の時期に、研究者たちがコツコツと開発を続けたテーマが工業化されるに至った。経済復興に向けた取り組みが、少しずつながら実を結びつつあると感じる。

新たなスローガン

 新聞、テレビなどでも楽観的な経済展望が述べられている。年末まで1〜2カ月を残した時点で、経済の各分野における「年間生産計画達成」報道が相次いでいる。

 今年、朝鮮は「国家経済力の強化」を政策目標に掲げた。各地の工場、企業所では年始から技術革新と生産拡大のための雰囲気作りに躍起であった。

 新聞、テレビは毎月、各地の工場、企業所が月間生産計画を「超過達成」したと伝えていた。秋になると「年間生産計画達成」の報道が目に付くようになったが、生産現場では増産のための総力戦が展開されており、労働者の意欲も以前より高まっているようだ。

 昨年、朝鮮は「苦難の行軍」の勝利を公式に宣言した。経済は依然として厳しい状況が続いているが、数年間にわたる前代未聞の試練に終止符を打ったとする政治的宣言は人々に希望と力を与えたに違いない。

 11月に入り、そんな時代の風を感じさせるスローガンが打ち出された。「羅南の烽火を先頭に新たな高揚を」。朝鮮の経済スローガンに付けられる「烽火」とは、「最初に主張された革新的な発想」や「新たな運動の始まり」を象徴する言葉。特定の地域で達成された成果を全国的に広めようという意図が込められている。「羅南」とは咸鏡北道清津市にある羅南炭鉱機械連合企業所。去る8月、ロシアを訪問した金正日総書記が列車による帰途、立ち寄った企業所である。

 「苦難の行軍」の時期には「城鋼(城津製鋼連合企業所・金策市)の烽火」「楽元(楽元機械連合企業所・新義州市)の烽火」などのスローガンがあった。資材、エネルギーなどすべてが不足する厳しい生産条件下で「自力更生」の精神を強く訴えた。「苦難の行軍」終結宣言後、打ち出された「羅南の烽火」のスローガンは科学技術の開発に基づいた経済発展を目指すものと思われる。金正日総書記は昨年、ここを現地指導した際、先端技術を導入した設備の生産を指示したという。

「朝鮮には潜在力がある」

 この企業所では、659トン級のクランクプレスを始めとする大型設備を自力生産し、高度の技術を要する油圧ポンプとシリンダーもつくった。その過程は「熱望」というタイトルの小説になり、人々に広く知れわたるようになった。同名のテレビドラマも制作、放送され国民的人気を博した。

 各地の工場、企業所では「羅南の烽火」のスローガンを掲げ、生産拡大に向けた決起大会が開かれている。日本の感覚で言えば、「烽火」の前にある単語が替わったに過ぎないのだが、朝鮮の労働者たちにとっては気分を一新させるに重要な契機になるようだ。ある労働者は「『苦難の行軍 の時、私たちは未来を信じ技術の研究や開発を怠らなかった。朝鮮には潜在力がある。必ず経済を立て直してみせる」と語っていた。

 「年間生産計画達成」の報道がメディアをにぎわす中、生産現場ではすでに来年の課題に話題が移りつつある。国全体が経済復興に向けて着実に前進しているという自信の表れだろうか。

 最近、平壌市民の間では来年春に行われるマスゲームと芸術公演「アリラン」が大きな関心事である。出演者10万人の一大プロジェクトである。

 「海外からも沢山の人が公演を観に来ることでしょう。平壌が満開の花で彩られ一番美しい季節。本当に待ち遠しいわ」

 キムジャンのために一日中奮闘したあるオモニは、休息の時間にそう語っていた。

 もうすぐ本格的な寒さがやってくる。人々は忙しい冬仕度に追われているが、彼らの表情は一様に明るい。(李松鶴記者)

日本語版TOPページ

 

会談の関連記事