こども昔話

トッケビの贈り物

李慶子


 よその畑を手伝って大根やら、あわやらをわけてもらいながら暮らす、じいさまとばあさまがいました。ほんとに貧しい暮らしでした。

 ある年の冬、雪がどっさりふって二人は草屋にとじこめられました。食べるものは残りわずかです。じいさまは深いため息をつきました。

 そのとき「じいさま、誰かこっちにやってくるけんど」とばあさまがぽろりといいました。

「こんな夜更けにばかなことを」

「いんやいんや。ほれ、足音がするじゃろ」

 耳をすますと遠くで雪をふむ音がしました。音はしだいに大きくなって、やがて草屋の前でぴたりと止まりました。二人が顔を見合わせていると、がらりと戸が開いてものすごい勢いで雪が流れこんできました。 外はただただ、白いばかり。けれども戸口には確かに誰かが立っていてチャラリンチャラリンと何やら投げ入れるのです。

 あわてて土間に下りると金貨、金貨。金貨の光でうす暗い草屋の中がぽっと明るくなりました。吹雪の間から太い大きな毛むくじゃらの足が、にょっきと見えました。

「借りた金返すぞ。ほうれ」

 足の主は金貨を投げ入れます。金貨はたちまちこんもりした山になりました。

「トッケビだ、トッケビだ」

 じいさまとばあさまは体をふるわせました。

「なにかのまちがいじゃ。それを持って、はよ、いんでおくれ」

 足の主は二人の言葉に耳をかさず、金貨を投げ入れて帰っていきました。

「どうしたものかのう」

「ほんに」

 金貨の山を前に二人はとほうにくれました。

「少し借りるというのは、どうじゃろ」

「そうしますかいね」

 ところがほんの少しのつもりが、気がつくと畑を買い家を建てて金貨をすっかり使い果たしていました。

 夏もすぎ、秋の刈り入れの季節になりました。よく肥えた畑では米や麦やとうもろこしがどっさりとれました。じいさまとばあさまだけではとてもとても食べきれません。そこで二人は金貨を置いていったトッケビを招いて、ごちそうをふるまうことにしました。

 おらが村のトッケビどんや
 もちが好きなら顔だせ  ほい
 おらが村のトッケビどんや
 酒が好きなら顔だせ  ほい

 畑仕事をしながらじいさまとばあさまは大きな声でうたいました。声ははるか遠い地の底のトッケビにとどき、その年の秋夕の夜、おおぜいのトッケビがやってきました。

 十五夜の月明りの下で、二人はもちやそばでもてなしました。ところが、次の日の夜。

「あずけた金かえせ!」

といいながら、いっぴきのトッケビがやってきました。

 じいさまとばあさまの顔をみて、いつか投げ入れた金貨のことを思い出したのでした。足をふみならし

「あずけた金かえせ!」

とうるさいこと。

 じいさまとばあさまはこまりはてました。

「まっこと、すまんこと。あの金でこの畑を買っちまったで、どうしてもというんなら畑を持っていっておくれ」

 するとトッケビは畑の四すみに鉄の杭を打ち付けて鉄のひもで結ぶと、えいやさよいやさと引っ張りはじめました。

 畑はぴくりとも動きません。

 もいちど  えいやさ
 ほうれ  よいやさ

 やっぱり畑は動きません。

 そのうち一番鶏がないて東の空が明るくなってくると、トッケビはようようあきらめて帰っていきました。けれどもトッケビはこりもせず一年に一度、思い出したようにやってきて、

 えいやさ  よいやさ
 もいちど  えいやさ
 ほうれ  よいやさ

 と鉄のひもを引っ張って、夜明けとともに帰っていきます。

 じいさまとばあさまはそんなトッケビがおっかないやら、おかしいやらで、せっせと畑仕事に精だして、いまではトッケビが来る日を首を長くして待っていますと。(完)

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