インタビュー 康成銀・朝大教授
植民地支配の不法性世界的な関心に
米国で「韓国併合」に関する国際会議
世界の学者らが「韓国併合」問題を論議する学会が11月16〜17日、米・ボストンで開かれ、康成銀・朝鮮大学校歴史地理学部学部長(教授・朝鮮近代史、51)が参加した。発表した論文で、日本側が「乙巳5条約」の「締結」過程を偽造した事実を新史料をもって論証した康学部長に学会の意義や今後の課題について聞いた。
1次資料で偽造論証 ―発表した論文について。 日本は1910年の「韓国併合条約」で朝鮮の植民地支配を完成させたが、その起点になったのが朝鮮の外交権を奪った1905年の「乙巳5条約」だ。この条約は日本が朝鮮の皇帝高宗と閣僚を脅迫し、外務大臣の官印を勝手に盗んで「調印」されたものだ。当時の国際法は「国家代表に対する強制」による条約を無効としていたことから、したがってこの条約を継承した「韓国併合条約」もまた無効だ。 しかし、日本政府は諸条約は合法的に締結されたと主張している。さらに、史料をねつ造し、歴史の真実を隠している。 歴史的事実を検証するうえで史料批判はその前提条件といえるが、とくにそれが公文書の場合、権力側の意図が色濃く反映されるため、徹底した史料批判が求められる。 「乙巳5条約」の「締結」過程についての究明は「日本外交文書」などの公刊史料に偏っている。今回の論文では同文書中にある「伊藤特派大使復命書」の草案を国立国会図書館から探しだし、その草案と復命書を比較し、日本側が朝鮮皇帝が同条約に同意したかのように復命書を偽造したことを立証した。草案を使った研究は初めてだ。 結果、2点が判明した。@草案では皇帝が保護条約に同意しないとあるのを修正案では合意したかのように書き換えてあり、A皇帝が朝鮮政府に条約の協議を行い妥協することを命じたという内容を書き加えている。 「乙巳5条約」の法的評価をめぐる論争の中で合法論者は、その根拠の1つにこの復命書をあげ、皇帝が保護条約の協議、妥協を命じ、裁可したと主張している。草案の検討によって、合法論の史料的根拠の重要な1つが崩れたと言えよう。 植民地の解決モデルに ―学会の意義について。 当事国の北南朝鮮、日本だけではなく、世界各国の学者が集まって旧条約に関する学術会議を開いたのは今回が初めてだ。朝鮮に対する日本の植民地支配が世界的な関心事になったと言っていいだろう。朝・日国交正常化交渉の過程で朝鮮側が原則的な立場を示してきたことも背景の1つにある。また、北南、海外(在日)の学者が新しい資料をもって旧条約の不法性を論証したことも大きな成果だった。 人類史上、戦争責任の解決モデルはあるが、植民地支配についてはいまだ解決モデルがない。この点で朝・日国交正常化交渉は、人類の外交史上初めて旧宗主国と旧植民地が加害者と被害者の立場で植民地責任問題を取り扱った事例だと言える。朝・日交渉が原則的に妥結されればその影響は計り知れないものがあるだけに、旧条約の研究が国際性を帯びてきたことは、わが民族全体の利益からしても喜ばしいことだ。 求められる資料公開 ―今後の課題は。 旧条約の不法性を論証するためには、当時の国際法に対する認識を学会内で統一していく必要がある。 研究者の多くは、旧条約は不当であったが合法(有効)だった、条約は当時の国際慣習法に照らして形式的適法性を有していたと主張する。しかし、これは「強者」の視点から国際法を見る一面的なものだ。その根底には帝国主義時代を弱肉強食の時代とみなし、「しかたなかった」とする考え方がある。 国家代表に対する強制によって結ばれた条約を無効とした当時の国際法は当時、国際社会で圧倒的多数を占めた植民地、従属国の動向を反映している。問題は、国際法に対するこうした見方がほとんど認識されてこなかったことにある。国際法は時に強者の行動を縛り、批判する根拠となった。この視点を提示し、国家の法的責任をあいまいにする「不当・合法論」を崩していく必要があろう。 「韓国併合」は、略式条約によって隣国の自主権を奪うというほかに例を見ない破格的なものだった。他の植民地支配との比較研究も課題だ。 また、朝鮮の国内政治との関連の中で旧条約問題を研究する視点が必要だ。当時、朝鮮は専制国家だったので皇帝がすべての権限を握っており、法体系がほとんどなかったという主張があるが、皇帝が議政府、中枢院の決定に拘束される側面があったのかどうかなど、大韓帝国の政策決定システムや統治能力を解明する必要がある。 日本では旧条約の関連文書の多くが非公開で、公刊された資料も偽造されている。日本政府に資料公開を求め、1次史料を通じて歴史の事実や偽造の実態を調べることも大事な課題だ。 世界の学者、
一同に「国際的な合意」めざす
「『韓国併合』の歴史学的・国際法学的再検討国際会議」を主催したのは、米・ハーバード大傘下のアジアセンター、韓国学研究所、ライシャワー日本学研究所、東アジア法研究所と米・ハワイ大傘下の韓国学研究所、日本学研究所など6研究所だ。「乙巳5条約」など朝鮮を植民地化した旧条約が当時の国際法に照らして違法か合法かを学問的に考証することを目的に開かれた。 すでに1月にハワイ、4月に東京でワークショップが開かれ、北南朝鮮、日本の学者たちがそれぞれ調査結果を発表した。今回の会議で国際的な合意を発表する予定だったが、議論が平行線をたどり、合意にはいたらなかった。今後、会議は継続される。 会議は定員制で北南朝鮮、日本、欧米の学者ら約40人がメンバーだ。今回は南側から李泰鎮・ソウル大教授、李根寛・建国大教授、在日同胞として唯一朝大の康教授、日本側から笹川紀勝・国際基督教大教授、海野福寿・明治大学教授らが参加。欧米からはジョン・W・ダワー・米MIT教授、ジェイムズ・クロフォード・英ケンブリッジ教授ら著名な学者らが参加した。第1回ワークショップに参加したリ・ジョンヒョン氏ら北側の学者は今回は論文のみ提出した。 |