それぞれの四季

「漢文読本」のこと


 朝鮮漢文の「入門書」として有名なのは「童蒙先習」(トンモンソンスプ)や「啓蒙篇」(ケモンピョン)などだが、「童蒙先習」などを教科書代わりに使おうものなら、「人倫」や「道徳」の説明が多く、その儒教臭さに若い人は辟易としてしまう。500年も前の本だから当然だろう。いざ、自分が若い人に教える段階になり、大変困った記憶がある。私が学んだ順序は、100年前の朝鮮での漢文習得のそれと同じでまず「千字文」を読み、それを暗記することから始まり、その次に「童蒙先習」というものだった。仕方がないので、漢文に詳しい父に泣きついた。すぐに送られてきた本を見てどう思ったか、今でも憶えていない。「漢文読本―學語集―」と銘打たれたその本の存在すら忘れ、3年ほど経ったある日、資料を探す最中に本が出てきた。単語とその説明の本と言ってしまえば素っ気ないが、パラパラとめくる内に読み耽ってしまった。「天地」「日月」「星辰」から始まり「風雨」「霜雪」など天気の変化や「四季」の移り変わり、その四季の中に生きる「花卉(かき=花と草木)」や「麒麟(きりん)」「龍」といった幻想動物の姿を絵に描くように紹介してあり、とても魅力のある内容だった。著者は未詳であるが、おそらく自分の子供のために漢文に詳しい人が16世紀以降に書いたものだろうということだった。魅力的な参考書をわが子のために…今も、昔も、子を思う親の気持ちに変わりはないのだなあと、父から送られてきた本の価値に気づくのに3年余りもかかった娘は、その時、赤面したのだった。(朝鮮古典文学専攻)

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