読書

20世紀とは、植民地、戦争・・・
在日同胞社会の行方は

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 @「過ぎ去らない人々難民の世紀の墓碑銘」

 在日の若い世代の中に、呉己順オモニを知っている人はどれほどいるだろうか?朴正煕軍事独裁政権のデッチあげによって、「スパイ罪」の汚名を着せられ囚われ身となった2人の息子(徐勝、徐俊植)のオモニであったことを。

 徐勝と徐俊植の両氏は獄中であらゆる拷問を受けながらも「思想転向」を拒否し続けた。オモニもまた面会に通ううちに、独裁と対峙していった。そのオモニの生涯は、「今世紀に朝鮮民族が経験した植民地支配と民族分断を一身に体現するかのようだ」った。

 著者のオモニだけでなく20世紀は、世界中に無数の「難民」を生み出した。戦争と暴力、帝国の支配に抵抗し続けた49人(詩人、文学者、革命家、民衆など)の「生」と「死」を鮮やかに描き出し、今世紀、人間の真のありようを提示している。若い世代に薦める。(徐京植著 影書房、2200円)

 A「『在日』を考える」

 日本の植民地支配によって、朝鮮人は「国境」を越えなければならなかった。

 日本に渡った朝鮮人は日本の敗戦に至るまで「皇国臣民」であっても、初歩的な権利すら与えられなかった。そして現在、朝鮮人はつねに国籍や戸籍(または外国人登録)などの様々な制約によって、日本人ほど自由に国境を越えて世界に飛び立つことができないでいる。それに加えて、民族差別、在日社会の中の南北分裂、世代交代による同化の進行など、激しい内面的葛藤に直面している。

 透徹した歴史観で、在日をめぐる時代状況を喝破している。日本の大学にいながらも「現代日本のネオナショナリズムの焦点は北朝鮮敵視にある」と言い切る著者に拍手を送りたい気持ちだ。

 本書を含めて「現代韓国の思想」「もっと知ろう朝鮮」(岩波書店)を推す。(尹健次著 平凡社ライブラリー、1300円)

 B「朝鮮の虐殺 20世紀の野蛮から訣別するための現場報告書」

 米ソ対立の厳しい冷戦時代、1950年6月に起きた朝鮮戦争。それによって北南の両方で1000万人の離散家族が生み出された事実を多くの日本人は知らない。それだけでなく、戦争の初期の混沌の最中、米軍による南の避難民虐殺が、ひそかに各地で行われたことも。

 1999年9月、AP通信が戦争時の住民虐殺「老斤里事件」を配信した(ピュリッツァー賞を受賞)。

 それを機に、南でタブー視されてきた住民虐殺をはじめ多くの米軍犯罪が次々と明らかにされ、堰を切ったようにようやく遺族が語り始めた。

 本書(原書題「ノグンリ、それから」)は、南のジャーナリストが在韓米軍55年の犯罪史を追った執念の書である。日本でも沖縄など在日米軍基地のあるところで米兵による犯罪が続いている。「日本語版発行は、20世紀の野蛮を終息させるために、日本と韓国の両国の良心が手を結ぶことにほかならない」と、著者は指摘する。(呉連鎬著、大畑龍次・大畑正姫共訳、太田出版、2100円)

 C「私にとっての20世紀」

 明せきな論理とともにユーモア溢れる文体で、20世紀をふかんする。絶えず世界の中に身を置きながら、現代状況を正しく捉える眼力は衰えることを知らない。

 ひとつひとつの文章はわかりやすく、説得力があり、容易に反論を許されないように思われる。その該博(がいはく)な知識と、論理的思考はどこから来ているのか。「読書術」(岩波現代文庫)には、その秘訣がぎっしりと詰まっている。(加藤周一著 岩波書店、2200円)

 「21世紀の肖像」

 1914年から91年までの「短い20世紀」を総括した「極端な時代」(三省堂)の歴史家が、人類が直面する諸問題の中で、どの出来事が重要なのか、また重要なものになりうるのかを直せつに述べている。国民国家、戦争と平和、資本主義、ITなど、問題ひとつひとつを理論的に整理している。コソボなどの紛争を通じ、時代の潮流が「戦争化」「暴力化」していると見る。米主導のグローバル支配への動きに対して警鐘を鳴らす著者の静かな言葉に耳を傾けたい。(語り手=エリック・ホブズボーム、聞き手=アントーニオ・ポリート、河合秀和訳、三省堂、1800円)

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