朝高生の大学受験資格差別問題
民全連調査
鈍る大学の自主判断
「大検合格」のハードル
文部省の政策に揺らぐ
朝高生の大学受験資格問題の解決に力を注いできた「民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会」(民全連、金秀蓮代表)が昨年、すべての大学を対象に受験資格の認定状況を調査したところ、4年前に比べて受験資格を認める公私立大学が増加している反面、すでに認めていた43校が決定を取り消していたことが明らかになった。文部科学省は2年前、日本の大学を受験する朝高生に「大検合格」という新たなハードルを課したが、この方針が結果として大学の自主的な判断を鈍らせる結果につながっている実態が浮かび上がったのだ。ちなみに国立大学は文部科学省の方針を盾に、いっさい認めていない。
「認める」が年々増加 「一条校に準ずる」「大学の独自判断」 民全連は近畿地方の日本大学に通う同胞学生を中心にしたグループで、昨年の6〜11月にすべての国公私立大学(618校)を対象に調査した(調査報告書の全文は別表記)。調査の方法は、大学に調査票を送付し、「民族学校卒業生の受験資格を認めているか」「どのように受験資格を認定しているのか」などを質問した。 その結果、「受験資格を認めている」と答えた大学は公立大学34校(前回比4校増)、私立大学228校(前回比8校増)で、公私立全体で50%を越えていた(表参照)。4年前の調査と比較すると全体として12校の増加だが、比率が若干下がったのは、すでに認めていた大学のうち、43校が資格を取り消したからだ。新たに認めた大学は60校(うち13校が新設校)だった。
朝高生の受験資格を認める公私立大学が年々増え続けている現状は、民族教育の権利保障を求める同胞たちの長年の努力が着実に実を結んでいることを示している。日本政府に朝鮮学校に対する差別是正を勧告した、日弁連や国連機関の動きも追い風になったといえよう。受験資格を認めた大学が、調査票に記した理由からそれが伺える。 各大学は、文部省の方針に従わず、独自に決定を下した理由について、「朝鮮学校がいわゆる『一条校』に準じた教育を行っているため」「国際化時代に外国人を受け入れるのは当然」「大学独自の判断を行う立場から」「学ぶ意欲のある者に対し、門戸を広げるため」―と回答している。 地域別に見ると、近畿圏(大阪、兵庫、京都)では、約8割の大学が受験資格を認めており、公立大学も1校を除いてすべての大学が受験資格を認めていた。 認める→認めない 「後退組」が43校 今回の調査では、従来、朝高生の受験資格を認めていたにも関わらず、「文部省の指導は軽視できない」などとして、決定を覆した私立大学が43校におよんだ事実も判明した。国立大学は、「朝高生の受験資格を認めない」とする文部科学省の立場を踏襲し、全大学が受験資格を拒否した。 朝高生の大学受験資格を一貫して否定してきた文部省(現文部科学省)は、1999年7月に朝高生に大学入学資格検定(大検)の門戸を開くことで、日本の大学を受験する朝高生に「大検合格」という新たなハードルを課した。 「認める」から「認めない」に決定を変更したすべての大学に、民全連が電話で再調査したところ@「元々認めていなかった」「元々大検取得を要件としていた」(全体の50%)A「検討中」「再検討中」(40%)B「文部省の指導は軽視できない」「以前の決定が間違っていた」(10%)―などの答えが返ってきた。民全連は、「後退組」が増えたことについて、「『大検資格の弾力化』方針が、大学の自主的な判断を鈍らせる結果につながっている」と分析する。 決定変更にあたっても、検討機関を設置したり、実務の引き継ぎがきちんと行われた形跡はなく、「この問題に対する大学側の無関心さが伺えた」という。なお、大検解禁後に「認めない」に変更した大学(白鴎大学、大阪電気通信大学)は、その理由について回答しなかった。 調査そのものに回答を拒否する大学も多かった。調査対象の約14%にあたる86校が調査票の回答を拒否。民全連がいくつかの大学に電話取材したところ、実際は認めていたり、出願時に審査していると答えた大学もあったが、「公的には大学の態度を明らかに出来ない」と弁明した。 大学受験の弾力化 文部科学省(当時、文部省)は、1999年7月に朝高生に大学入学資格検定(大検)の門戸を開くと発表した。 それまで朝高生には大検の受験資格すら認められていなかった。そのため、朝高生は、日本の通信制高校に通うなど、ダブルスクールの負担を強いられていた。 大検の門戸開放は、朝高生を念頭に置いたものとされたが、実際は朝高生に「大検合格」という新たなハードルを課す結果となった。 大学側の無関心痛感 民全連代表の金秀蓮さん 調査で明らかになったのは@民族学校卒業生に対して大学受験資格を与えまい、とする文部科学省の姿勢A文部科学省の指針や指導にとらわれ、独自の判断を出来ないでいる一部大学の存在である。 深刻なのは、大学側の無関心さだ。問題の存在すら知らない大学関係者があまりにも多い。以前協力してくれた教授の中にも、「大検が受けられるようになったから、受験資格はもういいのでは」と話す人が増えており、運動が難しくなっていると痛切に感じた。 今後、日本政府に民族教育を制度的に保障させる運動を発展させるためにも、各地でこの調査結果に基づいて、朝鮮学校が置かれている状況を訴えて欲しい。 民全連では今後、政府・文部科学省に差別の是正を要望していく。また、各大学に対しては、「検討中」などと答えた大学にターゲットを絞り、受験資格を認めるよう、働きかけていく。 実態を知らせることが運動の第一歩だと思う。近々近畿地方の同胞学生を集め、シンポジウムを開く予定だ。(京都薬科大学2回生) 深刻な文部省の圧力 鄭秀容 公・私立大の多くが受験資格を認める方向で動いている。こうした流れに抗し切れず昨年、文部省は仕方なく大検の受検資格緩和を決めたが、それは民族学校の無資格を固定化する策に過ぎなかった。この決定により、以前は受験資格を認めていた大学の一部が新たに大検というハードルを課すようになったことが今回の調査で明らかになった。文部省が圧力をかけているという話も聞くが、大変深刻な問題だ。 今回の調査結果を広く知らせて世論を喚起し、日本市民らの支持も得て、大学受験資格はもちろん、朝鮮学校の全般的な処遇改善を求めて今後も力強く運動していく必要がある。 資格認定の制度化必要 田中宏 やはり1999年7月の文部省決定(大検の受検資格緩和)が、一定の影響を与えたようで、資格認定校の比率が若干下がっている。こうした事態を防ぎ、各大学の資格認定をより確実なものにするためには、私が以前いた愛知県立大のように、「外国人学校修了者の入学資格認定規程」などの制度化が必要であろう。 今後、こうした調査だけでなく、外国人学校側が、毎年の進路指導において、各大学がどのように対応しているかを正確に把握することが必要であろう。そこから浮かび上がってくる「変化」に、どう対処するかを考えることを忘れてはなるまい。(龍谷大学特認教授) |