6000人が観覧した舞踊組曲「歳月」巡回公演

世紀、世代越え心つながる


全国の舞踊愛好家の力で成功をおさめた「歳月」(東京公演)

植民地時代の1世の苦難を描いた「アリラン」。前例中央が朴秀子さん(東京公演)

 舞踊組曲「歳月」の巡回公演が3月20日の東京公演を最後に幕を閉じた。「歳月」は世代、世紀を越え、朝鮮舞踊を愛し、踊り続けていこうと在日本朝鮮文学芸術家同盟(文芸同)舞踊部が3年前から準備してきたもの。昨年12月に大阪、今年の2月に名古屋でも上演された。公演を通じて文芸同支部の再建、活性化がはかられ、3ヵ所の公演には朝鮮学校生徒から社会人、家庭を持つ女性、専門家にいたる延べ300人の朝鮮舞踊愛好家が出演した。入場券の販売や広告の募集もメンバー自らが行い、3ヵ所で6000人の観客を集めた。「歳月」にかけた思いを出演者に話してもらった。

亡き両親を思い踊る/一世の愛族の意志、次世代に

文芸同神奈川 朴秀子さん(50)

 出演作の「涙のアリラン」は植民地時代の1世の苦悩を描いた作品。今は亡きアボジ、オモニの姿を想い、何度も涙があふれた。

 私の父母は日々の生活に追われながらも7人兄弟を朝鮮人として立派に育ててくれた。1世は朝鮮学校という何物にも代えがたい財産を残してくれた。3人の子供を育てた今になって感謝の気持ちで胸がつまる。1世がいなければ、子供たちが朝鮮学校で学ぶことは出来なかったから。

 1世の意志を次の世代に伝えていこう―。この一心で作品に取り組んだ。

 しかし、出演者の半数は3世。われわれ2世とは違い、1世の姿を見ずに育っただけに、その思いを芸術的に表現することは容易でなかった。人間の尊厳を奪われた元「従軍慰安婦」の体験記を読んだり、互いに話し合ったり…。1世が当時をどう生きたか、自分だったらどうしたかをとことん話し合った。

 1世の生き様に思いをはせることは、自分自身がどう生きて行くか、という問いにつながる。歴史の事実を自分自身にたぐり寄せることがもっとも必要だ。

 今公演をきっかけに文芸同神奈川支部舞踊部が再建された。今後も同胞の生きざまを表現していきたい。

「人の広がり」を実感/民族学級生徒の姿重ね

文芸同京都 黄昌詔さん(23)

 舞踊を踊るのは、生まれて初めて。タルチュム(仮面舞)に男性が必要だということで、声がかかった。

 小学校から日本の学校で学んだ。大学で留学同(日本の大学・専門学校に通う同胞学生の団体)と出会わなければ、民族や同胞について考えることはなかった。ましてや朝鮮舞踊を踊ることなど考えられなかったこと。

 「歳月」の練習と同時に大阪で民族学級の講師も始めた。民族学級に学ぶ子供たちは、朝鮮にルーツを持つが、家庭の環境や育った経緯も様々。だから授業に対する感じ方も一面的ではなく、「民族」を伝えることの難しさを感じていた。

 民族学級の子供たちには、どんな形にしろ自分の出自やルーツを避けて欲しくない。今後、子供たちの成長を後押しし、勇気づけ、力になるのは「人のつながり」。僕自身、留学同の活動を通じて多くの同胞に出会い自分の生き方を探れた。

 オモニやヌナ(姉さん)は僕が「歳月」に出演したことで、朝鮮舞踊の公演に初めて足を運んだ。人のつながりはこのように広がっていくと思った。

「オンマ!」一緒に頑張ろう/娘と仲間に支えられ

文芸同東海 李峯礼さん(37)

 文芸同東海支部からは、家庭を持つオモニたち約20人が出演した。乳飲み子を抱えていたり、シブモ(夫の両親)と暮らす主婦たちもいるので家庭と練習の両立が大変だった。

 私をはじめとする主婦層が多く出演した作品「永遠に栄えあれ」は、公演の最後を飾る演目。花輪をつなげる踊りだが、1人でも抜けると、輪をつなげないので練習が成立しない。出演者の心を一つにすることが必要だった。

 練習が大変でめげそうになった時もあるが、愛知朝中で舞踊をしている娘が「オンマ、一緒に舞台に立つ日まで頑張ろう! 公演が終わっても絶対にムヨン(舞踊)やめちゃだめだよ」と励ましてくれた。その時、この子たちのためにも、彼女らが目標にできる場、成長した後も踊り続けられる環境を作ることが私の義務だと思った。

 ここ数年青年層と主婦層がそれぞれクラスを設け、週1回の練習を重ねてきた。「歳月」を成功させたメンバーは強いつながりを感じる仲間。このつながりを育てていくことが大事なことだと思っている。

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