済州島を知る3冊
近年、従来の政治、経済、社会中心のアプローチから人々の生活世界に焦点を当てて在日の歴史を記述する傾向が見られる。こうした中で、済州島出身者の聞き取り調査を基にしてまとめた「サJ世紀の滞日済州島人 その生活過程と意識」(高鮮徽著、明石書店)は「生活者」の視点で、自主的に生きる道を選択し、あらゆる困難を乗り切ってきた人間の姿を微細的に描いている。
中でも、地縁ネットワークの役割を果たしている親ぼく会について著者は、地縁結合の機能によるアイデンティティーの保持および強化であり、それは国家(国籍)のアイデンティティーを越えるものだ、と指摘する。 済州島の杏源里という村に住み、またそこから日本に渡った人々に会い、その人々の生から歴史や社会のうねりを学びながらまとめたのが「生活世界の創造と実践 韓国・済州島の生活誌から」(伊地知紀子著、御茶の水書房)である。 著者は、植民地支配や冷戦といった歴史のダイナミズムのなかで、人々はただ翻ろうされていたのではなく、創造的な生活実践を多様に展開してきたことを力説している。文書記録に登場しないごく普通の人々の日常生活の記録である。 済州島を語る際、海人文化の形成・発展過程を無視することはできない。これまで陸地中心に物事を捉える歴史観が支配的であったなかで、歴史家・網野善彦氏のように陸の対極に位置する海の文化、海人の世界に着目して歴史を捉え直す動きが注目されている。「海を越える済州島の海女 海の資源をめぐる女のたたかい」(李善愛著、明石書店)は、南の全土と日本に渡って移動と定着を行ってきた済州海女(ヘニョ)の聞き取り調査をまとめたものである。ヘニョを通して海人文化の実態を明らかにした本書は、日本での初の海女研究書といっても過言ではない。 |