戦時中、弾圧された西宮市の徐さん 県弁護士会に人権救済申立
「法案維持法」は不法
日本政府に事実の検証、謝罪認める
申立書提出後、TV局の取材に応じ、当時の写真を見せる徐元洙さん
申立書提出後、TV局の取材に応じ、当時の写真を見せる徐元洙さん
兵庫県西宮市在住の徐元洙さん(76)は3月28日、戦時中、「治安維持法」違反を理由に特高警察に逮捕された問題と関連して、兵庫県弁護士会に人権救済を申し立てた。同法によって弾圧された被害者が人権救済を申し立てたのは、日本の敗戦後初めてのこと。兵庫県朝鮮人強制連行真相調査団の安致源朝鮮人側団長ら関係者が同行した。
◇ ◇ 申立書によると、徐さんは植民地支配下、民族差別に反対して立ち上がろうと、民族独立運動をしていた中学時代の同級生に手紙を送ったところ、「治安維持法」違反の容疑で44年7月に逮捕された。徐さんは政治犯として神戸刑務所の独房に送られ、満足な食事も水も与えられない虐待を受けた。そして45年2月、検事から「このまま刑務所で爆撃にあって死ぬか、戦地へ行くか考えろ」と二者択一を迫られ、懲役2年、執行猶予3年の刑を選び、釈放されたという。 しかし、日本による朝鮮植民地支配は、63年の国連国際法委員会報告などで明確に示されているように、当初から「無効」である。日本の朝鮮植民地統治は当初から法的効力をもたないのだ。 徐さんは申立書で、「(だから)朝鮮人が日本の植民地統治に抗してたたかう」のは国際法上、当然の権利であり、「他民族に日本の治安維持法を適用した日本政府」こそ、「国際法に違反した責任を負うべきだ」と指摘している。 そして日本政府に対して@事実の検証と真相の全面的な公開A事実の公的な認定と責任の受諾を含む謝罪B被害者の肉体的・精神的被害に対する謝罪C教科書などに他民族に対する抑圧と「治安維持法」弾圧に関する正確な記録を含める――ことなどを求めた。 申し立て後、神戸地裁司法記者クラブで会見した徐さんは、「人間としての尊厳を取り戻したい。真の朝・日友好関係を築くためにも、日本政府は過去をきちんと清算し、謝罪すべきだ」と訴えた。 朝鮮人強制連行真相調査団の洪祥進事務局長の話 日本による朝鮮植民地支配は無効であり、日本の国内法である「治安維持法」で朝鮮人を逮捕したことは、国際法上、違法行為である。そのことを申し立てた意義は大きく、「治安維持法」で一九四四年までに検挙された在日朝鮮人は約4700人に上る。また今回の申し立てによって、過去の清算問題において新たな問題を提起したことにもなった。 神戸大学大学院国際協力研究科の戸塚悦朗助教授の話 司法が総反省し、「治安維持法」に適応された戦前、戦後の被害者の名誉を回復すべきだ。弁護士会の適正な判断を期待している。 |