神戸朝高吹奏楽部 選抜大会初出場の神戸国際大付属高を友情応援
甲子園に響いた朝・日友好の「アリラン」
20年来の交流が花咲く
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「アリラン」を演奏する両校の吹奏楽部員たち |
神戸国際高の生徒にフルートの指使いをアドバイスする千裕和さん(右) |
熱戦を繰り広げた第73回選抜高校野球大会。3日目の3月27日、第3試合8回裏の甲子園球場に朝鮮を代表する民謡「アリラン」の曲が響きわたった。1963年の創部以来、春夏を通して初の甲子園出場を果たした神戸国際大学付属高校(以下国際高)の応援のため、1塁側アルプススタンドに駆けつけた神戸朝鮮高級学校と国際高吹奏楽部の合同演奏によるものである。春本番の甲子園の空に、朝・日友好の架け橋がかかった。
試合当日。朝高吹奏楽部メンバー36人は国際高の応援団とともに、同校からプレゼントされた水色の帽子とウインドブレーカーをまとってスタンド入りした。フルート担当の千裕和さん(17)は甲子園球場の大歓声に、「テレビで見たことはあるが、これほどまで迫力があるとは思わなかった。こんな大舞台で演奏するなんてわくわくする」と興奮気味だった。 「ウーッウーッ」――。試合開始を知らせるサイレンが鳴ると、朝高吹奏楽部の女生徒たちはいっせいにウインドブレーカーを脱ぎ、チマ・チョゴリ姿で演奏を始めた。「ポパイ」などおなじみの応援歌18曲を次々に披露し、迫力ある演奏でスタンドの応援団を盛り上げた。 試合は国際高が先制点を入れ、2対1とリードして8回裏を迎えた。しかし相手チームの反撃にあい、ノーアウト2塁のピンチに立たされた。その瞬間、国際高ナインを奮い立たせるかのように、1塁側アルプススタンドから「アリラン」が響き渡った。エース、坂口友隆くんの熱烈な要望だった。坂口くんは昨年、同校で教育実習を行った朝鮮学校出身の大阪音大生、林ユヒャンさんを通じて同曲を知ったという。 「三拍子の曲で応援歌向きではなかったが、アレンジして演目に取り入れた」(音楽担当の中山猛先生) 国際高は惜しくも5対2で敗れたが、神戸朝高生の熱のこもった演奏に生徒会長の窪田真人くん(16)は、「朝鮮学校に対する認識が変わった。これからも生徒同士仲良くしていきたい」と語った。 神戸朝高の生徒たちは、「夏もがんばってね。また応援しに来るから」と合同応援のメンバーたちと固い握手を交わしていた。 ◇ ◇ 今回の友情応援は、20余年来の交流のたまものだ。両校は通学にJR、山陽電鉄の垂水駅を利用する生徒が多く、かつてささいなことで生徒同士のいざこざが長年絶えなかった。「なんとか不信感を解消し、さらに相互理解を深められないか」と双方の教員が話し合い、年に1度、交替で互いの学校を訪問するようになった。以来、運動会や食事会などを通じて交流を深めてきた。 こうした交流の成果をふまえ昨年末、甲子園に初出場することが決まった国際高から朝高吹奏楽部に応援の依頼があった。 国際高の吹奏楽部は今春、3年生11人が卒業して部員が6人に減り、甲子園での演奏が難しかった。そこで神戸朝高に白羽の矢が立ち、朝高サイドが依頼を快諾。今回の合同応援が実現した。 神戸朝高は全国の朝鮮学校生が競う中央芸術コンクールで10年連続金賞を受賞している名門校で、昨年度の第48回兵庫県吹奏楽コンクール神戸地区予選でも金賞を受賞するなど、その実力は折り紙付きだ。 2月に国際高で行われた選抜旗授与式では、神戸朝高が甲子園の行進曲「TUNAMI」を演奏し、メンバーを激励した。 双方の吹奏楽部は2月末から楽譜を交換し、本格的な練習に取り組んだ。本番を前に神戸朝高で2回、国際高で1回の合同練習も重ねてきた。(李明花記者) 関係者の声 スタンドで国際高の清家智光校長と共に声援を送った、神戸朝高の崔在鳳校長(52) 今回の演奏は、20数年の交流で培った信頼関係があったからこそ実現したもの。21世紀の朝・日親善と友好を、ここ国際都市・神戸から発信することができたと思う。 国際高の清家智光校長(68) 朝鮮学校の生徒はみんな礼儀正しく明るい。神戸を発信源に友好をさらに深めていきたい。 指揮を担当した国際高の中山猛先生(44) タクトを一振りすればすぐについてきてくれる、朝高吹奏楽部のレベルの高さを感じた。アリランを指揮した時、朝高生徒たちの表情が誇りに満ちていたのに驚いた。民族の血が彼らをそうさせたのだろう。 国際高吹奏楽部の武井義人部長(17) 好きな音楽を通じ、友達になれてうれしい。今度はみんなで焼肉パーティーをしたい。 吹奏楽部に属する娘の愛蓮さん(17)の応援に駆けつけた文斗万さん(49) 「アリラン」を聴いた時、体が震え、なぜか涙が出そうになった。甲子園球場にアリランが流れるなんて、思ってもいなかった。 |