初めて制定 朝鮮学校保健活動規定

高錫健(在日朝鮮学校中央保健委)事務局長に聞く


保健教育理解に一助/教員、保護者の意識向上にも

 在日朝鮮学校中央保健委員会(以下中央保健委)は昨年末、民族教育史上初めてとなる「朝鮮学校保健活動規定」(以下「規定」)を制定した。中央保健委は朝鮮学校における過去40余年間の経験にもとづき、保健活動のさらなる充実を目指して、3年前に朝鮮学校教員や同胞医師らによって結成された。「規定」制定の意義と朝鮮学校における保健事業の今後について、高錫健・中央保健委事務局長(健仁外科医院院長)に聞いた。

発育データ作りも可能に

 在日本朝鮮人医学協会(医協)の呼びかけにより、朝鮮学校で身体検査が行われるようになったのは70年代から。しかし、学校によってその内容や水準がまちまちなのが現実だ。

 一方で近年、保護者(学父母)たちの間から、身体検査や保健教育の強化、充実を求める声が増えている。また2003年度から、民族教育の全カリキュラムが改正される。

 こうした現状を踏まえ対応するためには、今までの学校保健活動を総括して、この事業の全面的な体系化を図ることが求められた。

 そのため今回初めて、「朝鮮学校保健活動規定」というものを教育行政の主導のもとに作ろうということになった。

 「規定」制定の意義は何か。まず保健教育の概念をシステム化、マニュアル化することで、教育関係者や保護者らが理解しやすくなるということだ。

 つぎに、これによって教育機関において保健活動に対する意識が高まる。将来、朝鮮学校の教員となる朝大生らが保健事業に関する知識、意識、実践力をさらに身に付けてもらえれば、と思っている。

 今後、この「規定」をもとに学校が体系的な保健活動をできるようになれば、全国の身体検査結果をまとめて朝鮮学校児童・生徒の発育に関するデータを作り出すことも可能だ。

   今回の「規定」制定は第一歩に過ぎない。内容自体も決して十分とは言えず、とりあえず必要最低限の項目を盛り込んだ。

 しかしこの一歩が、朝鮮学校児童・生徒に統一的なケアと指導をできるひとつの道しるべとなれば幸いだ。中央保健委では、今回の「規定」を新世紀の要求にふさわしいものに作り、これをもとに、すべての朝鮮学校で体系的な身体検査や保健教育の授業が実施されるよう願っている。 

 2003年度に実行状況を中間総括して新たな改善策を取り、この年から実施される朝鮮学校のカリキュラム改訂に合わせ、保健教育の授業も充実化していけるよう働きかけていきたい。とくに各地での学校保健委員会の早急な設立を望む。また教科書に沿った保健授業の充実が望まれる。

 この新規定をもとに、総聯中央教育局の体系的な指導、現場におけるさらなる努力、そして医協の会員を中心とした外からの多大な協力を期待する。


朝鮮学校保健規定(要旨)

第1章  総則

 第1条  本規定の目的は、総聯各級学校の保健および安全に関する必要事項を定めることにより、学生と園児および教職員の健康管理と体力増進を図り、学校教育の実効性を高めるところにある。

 第2条  総聯各級学校は、本規定に従い次の事業を推進しなければならない。

 @学生、園児および教職員の健康診断、伝染病予防など、保健に関する計画を立て、それを正確に執行すること。

 A学校の換気、採光、照明、保温を適切に保障し、環境を文化衛生的に整えるための事業を責任をもって遂行すること。

 B学校施設および設備の点検を定期的に行い、必要に応じてそれらを修繕するなど、安全を保障するための事業を責任をもって遂行すること。

 C保健体育を基本にして理科、家庭など全ての教科目で取扱う保健安全に関する知識を習得させるための教育内容を、学生が正確に履修するようにすること。

 D体育文化行事、朝青および少年団活動、クラブ活動、社会実践活動など、全ての学校行事と課外活動が、保健安全に関する実践力を育てる重要な教育の場となるようにすること。

第2章  健康診断 および健康相談

 (就学前児童に対する健康診断)

 第3条  総聯各級学校は、初級部就学年齢に達した児童に対する健康診断を、入学4ヵ月前までに実施しなければならない。

 就学時の健診項目は次のとおりである。

 @栄養状態
 A脊柱および胸郭の疾病と異常の有無
 B視力および聴力
 C眼の疾病と異常の有無
 D耳鼻咽喉の疾患と皮膚疾患の有無
 E歯と口腔の疾患と異常の有無
 Fその他の疾病と異常の有無

 その他、質疑応答による簡単な調査をすることもできる。

 第4条  総聯各級学校は、健康診断結果により健康・保健衛生上で憂慮される児童に対しては、学校医との協議のもとに学父母に対する治療勧告と助言をしなければならない。

 (学生、園児に対する健康診断)

 第5条  総聯各級学校は、毎年6月30日以前に学生、園児に対する健康診断を実施しなければならない。

 健診項目は次のとおりである。

 @保健調査―アンケート
 A身体測定―身長、体重、座高
 B栄養状態検査
 C脊柱、胸郭、四肢、間接および骨の検査
 D視力および色覚の検査
 E聴力検査
 F眼の検査
 G耳鼻咽喉の検査
 H皮膚の検査
 I歯および口腔の検査
 J結核検査―ツベルクリン反応、X線間接撮影など
 K心臓検査―臨床医学的検査、心電図検査
 L尿検査―試験紙法
 M寄生虫検査―テープ法など
 Nその他―呼吸器、循環器、消化器、神経系統など

 (第6条〜第9条省略)

 (教職員に対する健康診断)

 第10条  総聯各級学校は、毎年定期的に教職員に対する健診を実施しなければならない。

 (第11条、12条省略)

第3章  体力測定および運動能力テスト

 第13条 総聯各級学校は、毎年6月30日以前に学生に対する体力測定および運動能力テストを実施しなければならない。

 体力測定および運動能力テストの項目

―体力診断テスト

 @反復横とび(点)
 A握力(s)
 B上体おこし(回)
 C長座体前屈(p)
 D踏み台昇降運動(指数)

―運動能力テスト

 @50m走(秒)
 A立ち幅とび(p)
 Bハンドボール(初級はソフトボール)投げ(m)
 C持久走・急走(男子1500m、女子1000m)(秒)

(第14条〜第17条省略)

第4章  伝染病に対する予防

(第18条、第19条省略)

第5章  学校医と学校歯科医

 第20条 総聯各級学校は、学校医と学校歯科医をかならず置かなければならない。

 第21条 学校医と学校歯科医は、医協(在日本朝鮮人医学協会)との協議のもとに、同胞医師に委嘱するのを基本にしながら日本人医師に委嘱することもできる。

 第22条 学校医と学校歯科医は、学校保健管理に関する専門的な事項に対して指導し助言しなければならない。

第6章  学校保健室

 第23条 総聯各級学校は、健康診断と健康相談、応急処置などを実施することのできる保健室を、実情に即して設けなければならない。

 第24条 学校は、健康診断と健康相談、応急処置を実施できるように、別紙「保健室に備える医薬品と備品について」に依り、必要なものを実情に即して常備しなければならない。

 第25条 学校は、学生・園児の健康状態が良くないか、学生・園児が負傷したときには、かならず学校医の診断を受けるようにしなければならず、その状況を学父母に迅速正確に知らせなければならない。

 第26条 学校は、障害者のための施設、設備を備えるために積極的に努力しなければならない。

第7章  学校保険

 第27条 総聯各級学校は、学生・園児および教職員の保健および安全に対する万端の態勢を取る一方、万一の場合を考えて諸般の学校保険に加入しなければならない。

第8章  寄宿舎の保健および安全

 第28条 寄宿舎のある学校は、寄宿舎の保健計画を立て、それを正確に執行しなければならず、号室、食堂、娯楽室、浴場など諸般の施設を文化衛生的に整え、安全を保障するための事業を責任をもって遂行しなければならない。

 第29条 寄宿舎のある学校は、学生の健全な成長を保障するために、寄宿舎に保健担当者を、食堂に栄養士をかならず置かなければならない。

第9章  学校保健予算

 (第30条省略)

第10章  学校保健委員会

 第31条 学校保健委員会を、中央と本部、各級学校に置かなければならない。

 学校保健委員会は、総聯中央常任委員会の委任により、総聯各級学校の保健安全管理、環境衛生管理の状況を了解掌握して、それに基づいた対策を立てることにより、学生・園児および教職員の健康増進に寄与する専門委員会である。

 (第32条〜第34条省略)

第11章  付則

 第35条 本規定は、2001学年度4月から施行する。

 第36条 本規定の実施状況を、新しい教育カリキュラムが適用される2003年4月の前に総括し、その改善対策に依り、この規定を改正するものとする。

 

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