「海峡を越えて」―前近代の朝・日関係史―C 朴鐘鳴

民族国家の「起源」を表現

豊かなバリエーションの価値・魅力


朝鮮の建国神話

 神話を概念規定しておくと、「宇宙・自然・人生・社会・文物などの諸事象の起源・由来を真正面に信じる立場で、超自然的存在の行為に帰した伝承的物語」である、と定義できよう。 それゆえ、神話は、そのまま「歴史的事実」とはなり難いが、神話が機能していた古代社会やそれ以前の時代にあっては、「信仰的事実」として「真実」であったといえる。

 朝鮮神話における建国者(建国神、支配者、王者―以下建国者)を中心に見ると、その出現形式は次のように多様である。

 ●檀(壇)君(タングン)神話(「三国遺事」)

 ●解慕漱(ヘモス)神話(高句麗、「東国李相国集」)

 ●朱蒙(チュモン、東明王)神話(高句麗、「三国遺事」)

 ●赫居世(ヒョッコセ、朴氏)神話(新羅、「三国遺事」)

 ●首露(スロ、金氏)神話(伽耶、「三国遺事」)

 ●脱解(タレ、昔氏)神話(新羅、「三国遺事」)

 ●三乙那(サムルナ)神話(済州島、「高麗史」)  これらの神話を要約して紹介する。

 ・檀(壇)君。天神桓因の子、桓雄が父神に願って、天符印三個を持ち、風伯、雨師、雲師および穀物、生命、疾病、刑罰、善悪をつかさどる神々を率い、太白山頂の神壇樹の下に降臨した。これが神市である。

 この時、熊が人間となることを願い、よもぎとニンニクを食べて女に化身し(熊女)、桓雄と結ばれて壇君を生んだ。壇君は平壌に建国して朝鮮と号し、1500年間統治して1908歳で亡くなった(「三国遺事」)。

 ・赫居世(朴氏)。天から山上に降臨した六村の祖らが有徳の人を求めて王にし、国を建てようと願った。この時に、楊山の麓で異気が雷光のように地に垂れ、白馬が跪拝(きはい)している様子なので尋ねてみたところ、紫の卵があった。馬は人を見るやいなないて天に上がってしまった。この卵を破ると中から端正な童児が生まれた。赫居世と名づけ王に推し国号を新羅とした(「三国遺事」)。

 以上のような、朝鮮の代表的建国あるいは王者出現神話を分類すると、次のような形式として規定でき、それも主として複合的である。

 @天降神話(天から建国者が降臨する)。

 A獣祖神話(ある獣を自らの祖とする)。

 B感精神話(ある精―日光=太陽に感応して建国者が誕生する)。

 C卵生神話(包まれ、覆われ、あるいは外皮をまとったものから建国者が誕生する)。

 D来訪神話(はるか海の彼方から建国者が来訪する)。

 E湧出神話(地中から建国者が出現する)。

 檀君神話の桓雄は@の形式、熊女はAの形式、解慕漱神話は@の形式、朱蒙神話B・Cの複合形式。

 赫居世神話は@・Cの複合形式、首露神話も@・Cの複合形式、首露神話に登場す許王后のそれはDの形式、脱解神話はC・Dの複合形式、三乙那神話はD・Eの複合形式となる。

 以上から、その特徴を取り出して見ると、天降・卵生神話がそれぞれ四例と最も多く、訪神話が三例とそれに続く。残りはそれぞれ一例ずつ三例であるが、感精・獣祖神話はのみにあり、湧出神話は南の済州島固有のものである。

 また、天から降臨したものは、基本的に建国者であり、海の彼方からの来訪者は、基本的に建国者の配偶者であるか、後代に王となる者である。

 すなわち、桓雄の子・檀君、そして解慕漱、赫居世、首露などは前者であり、許王后、脱解、三乙那の配偶者などは後者である。(パク・チョンミョン、朝鮮古代史。第2週、4週の水曜日に掲載)

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