朝鮮の「第11回2.16芸受賞コンクール」民族楽器部門

堂々の快挙!一位入賞李在洙さん(金剛山歌劇団チョッテ奏者)


 朝鮮の首都平壌で開催された「第11回2.16芸術賞」コンクールで、金剛山歌劇団民族管弦楽団チョッテ(横笛)奏者の李在洙さん(26)が在日同胞として初めて1位入賞するという快挙を成し遂げた。昨年10、12月の1、2次予選で国立マンスデ芸術団、ピパダ歌劇団、国立民族芸術団、国立交響楽団、平壌音楽舞踊大学などをはじめ朝鮮各道、各市の芸術団体からエントリーされた10人の新進気鋭のアーティストたちとテクニックと芸術性を堂々と競い合い、2月5日、平壌国際文化センターの尹伊桑(ユン・イサン)ホールで行われた本選で最高点を得て、見事1位に輝いた。

 3月8日、平壌牡丹峰芸術劇場は水を打ったような静けさに包まれた。息をひそめながら成績発表を待つ観衆ら。「1位、李在洙トンム!」という審査委員代表の発表に、劇場に駆けつけていた金剛山歌劇団のメンバー40人の間から一斉に歓声が上がった。

 李在洙さんはぼう然と立ちつくしたまま、「まさかこの俺が…。夢を見ているんだ」と何度もつぶやいたという。授賞式で、康能洙文化相から1位の証書とメダルを授与され1位入賞を実感した李さんは、喜びをかみしめながら、それまでの10年間を思い返していた。

平壌音楽舞踊大学通信教育課程に在籍

 チョッテ。高句麗壁画古墳に演奏する人の姿が描かれているほど、その歴史は古い。

  「豊富な表現力を持ったチョッテの音色にひかれた。民族の魂が私の心の中に自然と入ってくるかのようだった」。中学1年の時、初めて聞いたチョッテに親しみを感じ、民族楽器クラブに入った。

 高級部1年(東京朝高)からはクラブ活動をしながら、平壌音楽舞踊大学の民族器楽学部通信教育課程に在籍し、チョッテの第1人者であるリュ・スヨン教授に師事した。

 同歌劇団入団後は、「4月の春芸術祭典」などの行事に出演した後、現地で教授から手ほどきを受けた。

 「『2.16芸術賞』コンクールに出場しようと思ったのは、通信教育課程後の10年間を自分なりに総括したかったからだ」

 そして、一昨年12月の米国公演時、同歌劇団の踊りや音楽を観覧したコントラバス(バイオリンと同型の楽器中、最低音の楽器)奏者の権威者、エディゴメスさんから励ましの言葉をもらったことが、出場を決めたきっかけになった。

 「『こんなに素晴らしい民族音楽を聞いたことがない。世界的に認められるよう、これからも頑張ってください』という彼の言葉を聞いて、まず私たちの実力が朝鮮で認められてこそ、世界にはばたくことができると強く思った」

 91年から始まった「2.16芸術賞」コンクールは、朝鮮で最も権威のある音楽舞踊コンクールで、民族楽器、洋楽器、声楽(民族音楽、クラシック)、舞踊部門で構成され、1、2次予選と本選すべてが公開で行われ、受賞者は名実ともにトップアーティストとして公認される。

 だから当然のように、一般愛好家や芸術水準の低い者は予選にさえ出場することができない。所属する芸術団体からエントリーされたアーティストだけが出場できる。

 同歌劇団から出場の認定をもらった李さんは昨年8月、単身祖国を訪問した。

辛かった酷寒の中での練習

 滞在期間、1人で音をまげる練習、音の出し方や消し方の練習を繰り返した。「頭で考えた音は出したくない」と、ひたすら心琴にふれる音色を出そうと心掛け、練習に励んだ。楽音の高低、音色には普段より倍の神経をつかった。そして、どこへ行くにもチョッテと楽譜を離さなかった。

 1、2次予選を通過して本選を控えた1月、平壌の最低気温は零下27度にまで下がった。

 「元来、心臓が悪く発作も起きやすい体質なので、酷寒の中での練習は本当に辛かった」。しかし、「ここでくじけてなるものか」と、吐く息で手を温めながらチョッテを吹き続けた。

 いよいよ本選。1、2次予選を通過した新進気鋭のアーティスト5人が舞台に上がった。李さんはありったけの力を振り絞って、課題曲「激浪」、自由曲「祖国を歌う」を演奏した。

 在日同胞の祖国愛とともに、10年間祖国の配慮のもとで民族音楽を学んできた李さんの様々な思いが音色から熱く伝わり、審査委員と観衆たちを魅了し、中には涙を流す人もいたという。コンクールの審査は厳しく、昨年の民族楽器部門は1位なしの2位が最高だった。しかし、21世紀の最初の年にふさわしく、李さんは5人の審査委員から高い評価を受け、最高点24.62を獲得した。在日同胞音楽家として初めて1位入賞を果たした瞬間だった。

 「チョッテは私に民族の魂を与えてくれた。また奥が深い。これからも練習を重ね、民族音楽の伝統を日本や世界に伝えていきたい」。眼鏡の奥の方から目がキラっと光った。(金英哲記者)

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 1位入賞記念、李在洙独奏会が金剛山歌劇団の主催で7月4日、いずみホールで行われる(問い合わせ=金剛山歌劇団  TEL  042・341・6411まで)。

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