「海峡を越えて」―前近代の朝・日関係史―D 朴鐘鳴

朝鮮神話、日本神話に色濃く反映

渡来人・史氏集団の活躍


 日本の建国神話は、基本的に天降神話であるが、これは8世紀初頭、「日本書紀」「古事記」の編さん時、それまでに存在した諸地域の神話や豪族たちの神話を、天皇家を中心とした諸貴族の権威と現実政治における正当性の神秘化のために取捨選択して体系化した、極めて政治的な神話だ。特に、天皇家を太陽の子―「日の御子(みこ)」として絶対的神聖性の象徴であると強調する一貫性においてきわだっている。

 太陽そのものであるアマテラスの命令(@)によってその孫ニニギが、部下の神々(A)を伴い、三種の神器を持ち(B)、高千穂(たかちほ)のクシフル(あるいはソホリ、ヤマノタケ)に降臨(C)し絶対的存在として代々日本を統治する、というのがその建国神話のあらすじである。

 建国者の天降りというモチーフは、朝鮮の檀君・解慕漱・赫居世・首露神話のそれであり、@は「統治の神勅」と日本で言われるが、首露神話に、「皇天が命ぜられるには、この処に新しく建国し王となれ、と。それ故、天降って来た」とあるのと同断だ。

 Aは「随伴神」と言われ、日本では五伴緒(いつのとものお)に代表され、檀君神話では三神(風伯・雨師・雲師)である。また、高句麗や百済の5方、5部制度(貴族序列、行政組織)が「五伴緒」と関わる。

 さらに、檀君神話における「三千の部下」神に対応して、日本では「八十万神(やそよろずのかみ)が随伴する。

 Bの「三種の神器」は、檀君神話の「天符印三箇」とそのまま対応する。

 Cでは「降臨地」であるが、首露神話では「亀旨(くじ)」峯、日本では「クシフル」となる。あるいは「ソホリ、ヤマノタケ」に降臨したとあるが、この「ソホリ」は、朝鮮古語「蘇伐」「徐伐」(sa―buru、si―buru)に由来する。朝・日ともに、山頂降臨である。

 日本の神話は、朝鮮神話の諸要素を中心に、渡来人の神話・知識をベースにして成り立っている部分が大きいと言えよう。

 日本の古代、神話が文字として定着する時代、それを担ったのは「史(ふひと)」氏―文字、記録の専門担当官吏―であった。

 8世紀までの「〜史」を名乗る集団は69氏ある。そのうちの約50氏(70%強)の出自が朝鮮である。

 そもそも、文字を日本に伝えたのは百済であり、史氏の約70%が朝鮮出自なのであるから、日本の神話に朝鮮的諸要素が色濃く表出されることも、さして異とする種のこともないであろう。

 神話とは、現代人にとっては荒唐無稽(けい)そのものであろうが、それが作られた時代の人々にとっては「事実」「真実」であった。少なくとも、「そうありたく」「そうあるべき」事実、真実なのであったろう。
(パク・チョンミョン、朝鮮古代史。第2週、4週の水曜日に掲載)

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