取材ノート

間近で感じた「民族文化」


 日本の小学校に通っていた記者が、朝鮮学校への編入を決意したきっかけは、初めて見た朝鮮学校での小公演だった。朝鮮の歌を母国語で流ちょうに歌い、鮮やかな民族衣装で楽しそうに踊る同世代の姿は、大きなカルチャーショックだった。あの瞬間の興奮と感激は今も鮮明に覚えている。

 先月、都内で2つの公演を取材し、民族文化を同胞社会に伝えようと奮闘する姿を間近で体感した。

 金剛山歌劇団の歌手や東京朝鮮歌舞団の団長を務め、朝鮮歌謡普及の第一線で活躍してきた金黄英さんの初の独唱会。小さな会場は、120余人もの観客で足の踏み場もなくなった。

 70歳の誕生日を迎えたとは思えない豊かな声量、名曲「ネナラ(わが国)」「思郷歌」といった、祖国の山河の懐かしさを情感たっぷりに歌い上げる姿に、客席では目頭を押さえる姿も見られた。記者も初めて祖国を訪れた時の風景を思い出し、取材そっちのけで聴き入ってしまった。

 同じく金剛山歌劇団で活躍した舞踊家、金英蘭さんが主宰する「金英蘭朝鮮舞踊研究所」の第3回発表会にも、若者を中心に多くの同胞が詰め掛けた。

 幼児から大人まで50人の研究生が、2年間のレッスンの成果をのびのびと発揮する。わが子の名前を叫ぶ親の姿あり、先輩を応援する後輩たちの姿ありと、舞台と客席が一体となった、温かい舞台になった。

 金黄英さんと金英蘭さんが語るのは、民族文化への愛着と、それを3,4世の同胞に伝える使命感だ。日本で生まれ育った若い同胞の民族心を、歌や舞踊を通じて呼び起こしたい、民族の誇りを持って、いずれ訪れる祖国統一のその日を迎えてほしいというメッセージを、ひしと感じた。

 「あんな素晴らしい歌を歌いたい」「舞踊をやってみたい」。公演を見た多くの同胞の子供たちが、そんな気持ちを抱いてくれたのだろう。16年前の記者のように。(柳成根記者)

日本語版TOPページ

 

会談の関連記事