在日同胞の「日本人化」はかる

「国籍取得穏和法案」


 特別永住者(日本の植民地支配の結果、日本に住むことになり、解放後、サンフランシスコ講和条約により日本の国籍を離脱した在日同胞が持つ在留資格)に対し、許可制でハードルの高かった日本国籍取得を、届け出制に緩和しようという動きが出ている。与党3党が法案(骨子別項)成立を進めているもので、在日同胞が「日本人になる」よう仕向ける、日本政府が一貫して取ってきた同化政策の集大成と言えるものだ。総聯は、先日の第19回全体大会活動報告で、明確に反対の立場を示した。法案の内容、背景に何があるのか、洗いなおしてみた。

内容/届け出で簡単に「帰化」

 同法案では「日本国籍取得」という表現を使っているが、日本では従来、日本国籍を取ることを「帰化」と言ってきたし、現在もそうだ。同法案でも、これによって日本国籍を取得した者は国籍法による「帰化したもの」とみなすと明示されており、実態は「帰化要件緩和法案」だ。

 現行法のもとでの「帰化」は、@5年以上日本に居住A素行が善良で独立の生計が可能Bもとの国籍を離脱――など一定の条件を備えた者だけが申請可能で、それを許可するかどうかは法務大臣の判断にゆだねられる。審査の過程では、申請者の「日本人度」が徹底的に計られる。このハードルを特別永住者に限って下げ、届け出るだけで簡単に「帰化」できるようにしようというのが今回の改定案だ。

 繰り返しになるが、日本の国籍法は重国籍(2つ以上の国籍を持つこと)を認めていないため、日本国籍取得と引き換えにもともと持っていた民族の国籍は失うことになる。

経緯/権利欲しければ日本人に

 なぜ今こうした法案が出てきたのか。ひとことで言うと、民団などによる「参政権」要求を抑えるための対策、代替案としてである。

 1988年に「外国人の地方選挙権法案」が国会に提出されたのを前後して、右翼・保守勢力の間から「選挙権が欲しいなら帰化すればいい」「すでに実態は日本人と同じなんだから帰化すべき」という声がにわかに高まった。例えば最近では5月31日付産経新聞社説が、(朝鮮・韓国籍などの)永住者は本国への帰属意識は低く、外国人意識が希薄だとして、「永住者を真に『日本人として』受け入れることが政治の責務」(2重カギは筆者)だと、国籍取得緩和法案の早期成立を促している。

 「権利が欲しいなら日本人になれ」というのは、在日同胞に対して一貫して同化を迫ってきた日本政府の常とう句。「外国人のままで、つまり民族性を守りたいなら権利は制限する」という排除の論理とつねにコインの表裏を成し、日本の在日同胞政策は進められてきた。

背景/同化政策の総仕上げ

 「参政権」要求を抑えるための対策、代替案として急浮上したという直接的な経緯はあるものの、法案の目的自体は日本政府が一貫して追求してきた在日同胞同化政策に沿ったもので、日本政府は同法案により、在日同胞、同胞コミュニティーを消滅させるための事実上の総仕上げにかかったと言える。少なくとも、在日同胞に日本人と同等の権利を与えようという目的で浮上したものでないことは明白だ。

 かねてから「在日同胞自然消滅説」を唱えてきた法務省現役官僚の坂中英徳氏はすでに95年の著書で「いまや、在日韓国・朝鮮人が日本国籍を取得するための機が熟したと言えるのではなかろうか」と、日本国籍付与の簡素化の必要性を主張した。

 さらに坂中氏は同じ著書で、今後、権利が欲しければ「帰化」しなくてはならない、「帰化」しない人がこのまま日本に住みたければ差別を覚悟しなくてはならない、とまで述べている。

本質/在日同胞の存在を抹消

 特別永住者の「歴史的経緯」について明示した同法案は、在日同胞に対する戦後補償の一環でもあると説明されている。しかし、それを言うなら、在日同胞という存在そのものを生んだ根源である朝鮮への侵略と植民地支配に対する国家的な謝罪と補償、民族教育権をはじめとした在日同胞の諸権利保障がまず先に行われるべきだ。

 それもなしに、外国人への偏見、排他主義がいまだ根強く、「○○系日本人」の存在を許容するような度量のない単一民族観の強い日本社会で、在日同胞の同化のみを急ぎ、日本人化を法的にも完成させようという同法案の本質は、在日同胞の歴史性を闇に葬ることでその存在を完全に抹消しようというもので、到底容認できない。
(韓東賢記者)

「国籍取得穏和法案」(骨子)

 与党3党がまとめた「特別永住者等の国籍取得の特例に関する法律案」の骨子は次のとおり。

 第1条(趣旨) この法律は、特別永住者等について、その歴史的経緯および日本社会における定住性にかんがみ、日本の国籍の取得に関し国籍法の特例を定めるものとする。

 第2条(定義) この法律において「特別永住者等」とは、次に掲げる者をいう。

 1.特別永住者

 2.特別永住者との婚姻中又は養子縁組中に当該特別永住者が有する国籍の取得によって日本の国籍を失った者

 第3条(届出による国籍の取得) 特別永住者等で日本に住所を有するものは、法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。

 第5条(国籍取得後の氏名) 第3条の規定により日本の国籍を取得した者は、漢字の表記による従前の氏又は名を称する場合には、その漢字を用いることができる。

 第6条(国籍法第8条第3号の特例) 第3条の規定により日本の国籍を取得した者は、国籍法第8条第3号の規定の適用については、日本に帰化したものとみなす。

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