地名考−故郷の自然と伝統文化

全羅南道−Cカンガンスオルレ

敵の襲来を知らせた民謡

司空俊

海南にある大興寺 カンガンスオルレ

 全羅道は農業の盛んな地方であり、農謡も多い。

 代表的なのが、いわゆる「南道」(朝鮮の南部地方全域)で歌われた雑歌の1つ、「六字ベギ」である。この歌について、南道の人々は丸みがあり、力強いと話す。

 全羅道は農業が盛んであったので、正月になると「禾竿禾積(ファガンファジョク)」をつくり五穀豊作を願った。禾竿禾積は藁を竿のように堅く編み上げ、その上に稲穂、粟穂などを積み上げたものである。露積(刈り取った稲束を干すこと)のように豊作になることを願った。

 かと思うと雨祈願風習もある。旱ばつが続くと、谷城(コクソン)地方の住民は高いところにあがり、一斉に放尿する。これをいやがる天の神が汚れをはやく洗い流すために雨を降らすのだという。

 在日同胞の間でも人気の歌は「興打令」であろう。興打令には平安道打令、天安三巨里打令、それに全羅道打令がある。中でも忠清道の天安三巨里打令を知っている同胞が多いと思う。

 とくに若者の集まりで、「リフレイン」のおわりの「フン=興」などを上手に歌いこなしている様は、見ていて楽しくなり、思わず誘い込まれてしまう。

 全羅道のものは次のようである。

 /無情芳草は  連延が来るというのに/青春は  一度行ってしまうと/再び  来ることを  知らない…(リフレイン)  /アイゴ  デゴ  フン/星火がおきるよ  フン

 「興打令」というのは、歌詞の終わりに「フン=興」という囃子を入れる俗謡の一つであり、「連延」とはめぐり来て続くこと。「名も知らぬ芳草さえ、季節になると花を咲かせるのに」というのが歌詞の意味である。「星火」は流星の光のことで、転じて物事が急に変わることのたとえである。このおしまいの「フン」を、味わい深く歌うのが難しいという。だが、各人各様の「味」があるので楽しい。

 全羅南道の最南端は海南(ヘナム)半島。この地域の若い女性たちは旧正月15日、旧8月15日の月夜に円舞を舞い、壬辰倭乱に因んだ民謡「カンガンスオルレ」を歌う。対岸は珍島で、沖は鳴梁大捷の海である。歌詞は次のとおり。

 /空には  星瞬き  カンガン  スオルレ/よき友  よき広場  カンガン  スオルレ/竹やぶには  若竹  青々  カンガン  スオルレ/広い畑には  花々  爛漫  カンガン  スオルレ

 カンガン(強敵)、スオルレ(海を渡ってくる)は「強敵が海を渡ってくる」、あるいは「周囲に警戒せよ」という意味になる。漢字では一般に「強羌水越来」と書く。歌詞に竹、花が含まれているように、この地方は竹林とツバキに覆われている。

 1人が初句を歌った後に、皆が唱和する。カンガンスオルレと円を描いて、次々に歌い回る。この歌は全羅道一帯に広がっている。李舜臣将軍が、国難を克服し、民心を安定させ、敵の襲来を監視しみなに知らせるため合図に使われたと伝えられる。
(サゴン・ジュン、朝鮮大学校教員)

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