ブッシュ大統領のヨーロッパ歴訪、MD説得ならず
独、仏などEU諸国反対表明
中国、米に対抗関係強化
「ロシアの協調いかんに関係なく、ミサイル防衛計画(MD)は推進する」。MDに対する「理解」と「協力」を得るため、12日からヨーロッパを歴訪したブッシュ米大統領の努力は報われなかった。米国とヨーロッパの主張は平行線をたどり、ロシアと中国はMD反対の立場で結束を固めている。にもかかわらず、米国は依然MDを諦めようとはせず、ロ米首脳会談の翌日である17日、パウエル国務長官は前述のように述べ、あくまでMDを強行しようとしている。
賛同得られぬMD 12日からの5日間、ブッシュ大統領は就任後はじめてヨーロッパを歴訪し、EUの首脳やロシアのプーチン大統領との会談を行った。今回の訪問で米国は最大懸案となっているMDをはじめ、環境や通商などの解決を試みたが不首尾に終わった。 ベルギーのブリュッセルで13日に行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会談の場で、ブッシュ大統領は「新しい脅威に対して軍事力を現代化する必要がある」と間接的にMDの必要性を力説した。これに対しドイツのシュレーダー首相は「米国のミサイル防衛計画がNATO各国の安保を強化するという根拠はない。かえって今の弾道ミサイル不拡散のための多国間協調体制を強化する必要がある」とMD反対の意思を表明した。フランスのシラク大統領も「米国との会談には積極的に参与する用意はあるが、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)協定を中心とした戦略的勢力の均衡とミサイル拡散防止という原則を維持する」と、米国とヨーロッパの溝は依然埋まっていない。 16日にスロベニアで行われたロ米首脳会談でもブッシュはMDに対する理解を得ることはできず、プーチン大統領は「(ロ、米の)どちらかが一方的な行動をとった場合、複雑な懸案をさらに解決困難にする」とMDをけん制する立場を改めて表明した。 プーチン大統領は18日の米国記者団との対話でも、1972年に締結されたABM協定の修正や破棄に関する米国の一方的な動きを警戒するとともに、もしそのような事態になった場合、第1、2段階の戦略兵器削減交渉(STARTT・U)を含む核兵器関連の他の条約にも重大な影響を及ぼすであろうと指摘した。 一方、南朝鮮で15日に公開された「『韓』ロ共同声明関連事項調査報告」など3件の文献によると、米国がさる3月、国家ミサイル防衛計画に対し南当局が表明すべき支持内容を文書まで作成して強要したとされており、物議を醸している。 このような反MDの動きにもかかわらず、「米国はロシアの祝福のもとMDを推進したいが、究極的には平和と安保、米軍と同盟国保護のため計画を履行しなければならない」(ライスホワイトハウス国家安保担当補佐官、17日)と、あくまでMDを推進する姿勢を固持してる。 一極支配から多極化へ 中国の江沢民国家主席は14日、上海市内のホテルでプーチン大統領と会談を行い、米国のMDに反対する立場で意見一致を見た。ブッシュ政権発足後、初の中ロ会談ではプーチン大統領がABM制限条約の順守を訴える形で米のミサイル防衛に反対する立場を改めて表明したのに対し、江沢民主席は「世界の戦略バランスの安定に向けたロシアの努力を支持する」と応えた。 両首脳は7月に予定されている江主席のロシア公式訪問の準備を精力的に進めることで一致し、80年に失効した中ソ友好同盟相互援助条約に代わる中ロ善隣友好協力条約の正式調印を目指すことを確認した。 江沢民主席が「中ロ関係の発展は世界の多極化推進に重要な意義がある」と指摘するように、反MDの流れはアメリカの一極支配から多極化へと変える推進力となりつつある。 15日に行われた中ロ両国と中央アジア3ヵ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン)の「上海ファイブ」首脳会議では、ウズベキスタンも加えた常設組織「上海協力機構」設立の宣言、反テロ協力を定めた上海協定の調印とともに米国のMD構想への反対も明示した。タス通信によれば、6ヵ国の国防相はアジア・太平洋地域での戦域ミサイル防衛(TMD)配備に反対するとの共同コミュニケに調印したという。 米国の同盟国であるNATO加盟の19ヵ国中、ドイツ、フランスなど12ヵ国はMD反対の意志を表明しており、同盟国内でもMDに対する意見は統一されていない。 MD以外にも京都議定書に消極的な姿勢を示すなど、米国のその独善的な姿勢に多くの国々が異議を唱えている。その結果が5月に行われた国連の人権に関する委員会メンバー国選挙、国際麻薬統制委員会選挙での相次ぐ落選という形となって現れたといえる。 共和国に対する「前提」付きの対話再開や中国との緊張醸成、MDの強行など米国の戦略は世界的な批判を浴びている。世界の声に耳をふさぎ一国主義を追求してもブッシュ政権がこれ以上得るものは何もない。 |