前提は「朝鮮半島有事」
日本の集団的自衛権行使
小泉政権下で、集団的自衛権行使容認の声が高まっている(TOP参照)。「周辺事態」の際に行使される集団的自衛権。その前提となっているのが、「朝鮮半島有事」だ。在日同胞も無関係ではいられない。
新ガイドライン関連法の中心は周辺事態安全確保法であり、日本での集団的自衛権の行使をめぐる論議も、朝鮮半島や駐韓米軍などとの関連で行われている。だが、周辺事態安全確保法が作られるまでの過程ではすでに、朝鮮民主主義人民共和国をターゲットとする日米共同作戦計画がひそかにつくられ、実際にシミュレーション(模擬作戦)が続けられており、在日朝鮮人に対する規制を明文化するなど、対応策はすでに完成されている。 冷戦後の「新しい敵」 冷戦後米国は、ソ連に代わる「新しい敵」として、米国に順応せず自主の道を行く朝鮮や中東の国々を「ならず者国家」として名指しし、圧力をかけた。中東では1991年にイラクに対して武力攻撃を加え、朝鮮に対しては「北朝鮮の核疑惑」を持ち出して94年危機をつくり出し、武力攻撃寸前まで行った。 クリントン政権は当時、「作戦計画5027」の発動への協力を日本政府に秘密裏に要請した。「作戦計画5027」とは、朝鮮半島有事となれば、米太平洋軍総司令部の指揮のもとに、アジア・太平洋および米本土の米軍を総動員して北進先制攻撃を加え、北の主要都市を占領して、一定期間の軍政を経て「南主導」の南北統一をはかるという米韓連合作戦計画のことである。 これに対して日本政府は、「K半島事態対処計画」として、地方自治体や空港、港湾、民間まで総動員する1059項目の対米戦争協力法案を検討した。 また防衛庁の統合幕僚会議では、外務省など関係10省庁の内閣情報会議で立案した「朝鮮半島有事対応計画」にもとづき、「実施すべき自衛隊の行動」として12項目に及ぶ対米協力機密「統合研究」を行った。 その中には、例えば海上自衛隊の日本海(東海)封鎖、朝鮮艦艇への捜索活動、自衛隊艦艇の朝鮮領海までの進出も検討された。とくに航空自衛隊の場合は、「北朝鮮領空への進入、軍事基地、弾薬庫など戦略拠点への攻撃」まで綿密に検討された。航空自衛隊西部方面対では「北朝鮮上空まで進入し、500ポンド爆弾16発を投下する」という計画まで立てていた。 だが、米軍の朝鮮侵攻作戦計画は、「朝鮮半島で全面戦争となれば、最終的には米国側の勝利となるが、死傷者は100万人にのぼり、米国人も8万〜10万人が死亡する」という統合参謀本部の予測で軍事攻撃を断念したこと、ちょうどその頃、カーター元米大統領が訪朝して金日成主席と会談し平和解決に合意したことによって危機を脱し、クリントン大統領が「段階的接近方法」に転換して朝米基本合意書の調印となった。 新ガイドライン関連法−周辺事態安全確保法は、「94年危機」の教訓から、米軍がアジア・太平洋で軍事行動を起こす場合の日本側の全面的な協力体制を整備したもので、その中には朝鮮に対する日米共同作戦の内容も組み込まれている。 大阪、京都の強制捜査 94年の日本政府の「朝鮮半島有事への危機対応計画」の中には、朝鮮への「制裁」とともに、在日朝鮮人への規制・弾圧計画が次のように盛り込まれていた。 第1段階−人的交流制限など北朝鮮への渡航自粛勧告。日朝間の航空機乗り入れ禁止、北朝鮮船舶乗組員の行動制限、または上陸不許可。 第2段階−北朝鮮との輸出入など取引禁止。外国為替管理令、輸出貿易管理令などの一部改定、朝銀への指導監査強化など。 第3段階−破防法による朝鮮総聯の活動制限など。 第4段階−破防法による朝鮮総聯の解散指定。 第5段階(戦争の段階)−朝鮮総聯および在日朝鮮人に対する全面的規制。 94年4月には、朝鮮総聯大阪府本部など8ヵ所への1400人にのぼる警官隊による強制捜査、続いて同年6月には、京都府警と山科署が300人の警官隊を動員して京都朝鮮中高級学校、朝鮮総聯京都府本部および幹部宅など27ヵ所を強制捜査するという事件が相次いだ。 そして98年8月に朝鮮が人工衛星を打ち上げると、日本当局はこれを「日本に向けたミサイルの発射だ」として、日朝間の航空機乗り入れ禁止、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の費用分担署名見合わせなどの「制裁」措置を取った。日本各地では朝鮮学校児童、生徒たちに対する「チマ・チョゴリ切り」や暴行事件なども続発した。翌年10月には朝鮮総聯千葉県本部会館が不審火によって全焼し、千葉支部の副委員長が焼死するという惨事も起きている。 平和に逆行、非難の声 日本では最近、右傾化の動きが目立っている。ガイドライン関連法成立後だけでも、「日の丸・君が代」法および通信傍受(盗聴)法の成立、国会憲法調査会の設置、小泉内閣成立後にしても、集団的自衛権行使のための解釈見直し・改憲・国会決議の論議、小泉首相の靖国神社参拝主張、有事法制、国連平和維持軍(PKF)凍結解除への動き、それに過去の侵略の歴史をわい曲、美化する「新しい歴史教科書」の検定合格…などが相次いでいる。 こうした日本の右傾化、軍備増強、海外派兵への動きは日本とアジアの平和に逆行するもので、内外の怒りと憂慮をかき立てている。 冷戦後の多様化の時代に即して、国際紛争の解決は武力でなく対話と協調によるべきであり、有事にならないようにするための努力こそが望まれている。日本は軍備増強よりも過去の清算を誠実に行う外交から始めるべきである。(韓桂玉・大阪経済法科大学客員教授) |